15)苦闘と限界
投稿日時
なう(2025/07/05 17:28:23)
改稿日時
「っ……く、そっ……!」
土の上に転がった枝が、バチッと音を立てて砕け散った。
村瀬陽翔は、冷や汗にまみれた顔でその残骸を見つめていた。
「なんでだよ……っ、こんなんじゃ……!」
すでに何度目になるだろう。
石ころ、木の枝、小さな破片……
そのどれもに“解毒”の付与を試みた。
だが、いずれも"魔力に耐えられずに砕けた"ように見えた。
「やっぱり、生き物には直接付与できないってことか……」
この魔法の構造は、かつて遊んでいたゲームの記憶と酷似している。
付与魔法──それは、意志を持たない「物」に魔力とイメージを込め、力を宿らせる術。
──生き物そのものに直接は使えない。
ならば、と石や枝に魔力を込めて「毒を浄化する」効果を宿らせようとしたのだ。
けれど──
「……素材が、耐えきれないんだ。俺の魔力に」
魔力の通し方が拙いのか、それとも素材が貧弱なのか。
いずれにせよ、今のところ『宿る前に砕ける』という結果しか得られていない。
そしてその間にも──腹部を蝕む毒が、じわじわと命を削っていく。
「っ……まだ……だ、まだ終わらない……」
地面に落ちていた石片を力なく見つめながら、陽翔はふと思う。
「……いや、そもそも“石ころ”じゃ、無理なんじゃないか……?」
小さすぎて魔力を流し込む“器”になっていない。
木の枝も細くて脆い。
(なら、もっと──もっと大きな、しっかりした素材なら……!)
目を上げる。
彼の視界に、少し離れた場所の岩肌が入り込む。
苔のついた、しっかりとした岩塊。
「……あれなら……!」
ふらつく足取りで、彼は地を這うようにして立ち上がる。
手をつきながら、一歩ずつ。
意識は朦朧としている。
だが、今の彼にとって、その岩こそが──生と死を分かつ最後の希望だった。