14)希望と異変、付与魔法への挑戦
投稿日時
なう(2025/07/05 17:22:57)
改稿日時
土器鍋の蒸気が立ちのぼる。
村瀬陽翔はその様子を、深く満足げに見つめていた。
火の中でもびくともせず、泥水を蒸気へと変え、滴り落ちた水滴が蓋の下をつたって容器に落ちる。
「……やった、これで、しばらく水には困らない」
ここに来てから、ようやく一息つけたような気がした。
火がある。土器がある。蒸留装置がある。
(少なくとも、水さえあれば死にはしない。)
これまでは一滴ずつ集めていた水も、今は鍋一杯分の泥水が勝手に浄化されていく。
空腹はあるが、希望もあった。
そう──その時までは。
「……ん?」
腹に違和感を覚えたのは、夕方を過ぎた頃だった。
鈍い痛み。小さな棘のような違和感が、じわじわと広がる。
「……まさか」
視線を焚き火のそばに置いた空き殻──今朝、食べたキノコの欠片が目に入る。
「うそだろ……食べられると思ったのに……!」
腹が、締め付けられるように痛い。
冷や汗が止まらない。視界がちらつく。吐き気もある。
震える手を土で拭いながら、彼はようやく自覚する。
──食中毒。
「やばい……これ、ガチで……死ぬ……かも……」
ここには医者も薬もいない。
あるのは火と土器と、蒸留したばかりのわずかな水だけ。
(このままじゃ……死ぬ……いや、待て)
朦朧とした意識の中で、陽翔の脳裏に、"かつて遊んでいたゲームの記憶"がよみがえる。
──思ったことを“付与”できる魔法。
──“病気が治る”とイメージして物に付与すれば、治癒の効果が宿る。
「……そうだ……あの魔法……もし、本当に使えるなら……!」
夢物語かもしれない。希望的観測でしかない。
けれど──何もしないよりはマシだ。
彼は最後の力を振り絞り、近くの木の枝を手に取る。
「治る……治るんだ……この痛みを……止める……!」
必死に“治癒”のイメージを頭の中で練り上げる。
胃を包むような温かさ。体から毒が抜けていく感覚。
ただの棒きれに、魔力を流し込む。
びぃ、と指先がしびれた。
「っ……たのむ……っ!」
棒を腹に押し当てる。
魔力が、確かに流れた気がした。
しかし──何も起きない。
「ちくしょう……まだ……足りない……!」
だが、陽翔はあきらめなかった。
何度も、何度もイメージを描き直す。
『痛みを取り去る』『毒を無害化する』『命をつなぐ』
その時だった。
ぼんやりとした淡い光が、棒の先にわずかに灯った。