12)火の次は器を!
投稿日時
なう(2025/07/05 17:12:02)
改稿日時
火が手に入った。だが、村瀬陽翔の仕事は終わらない。
焚き火の炎が徐々に弱まりかけたそのとき、彼はあることに気づいて飛び上がった。
「……あっ! 焚き火、ちゃんと組んでないじゃん!」
小さな火種を守ることに夢中になっていて、燃焼効率を考えた焚き火の構造を作っていなかった。
あわてて細い枝、枯れ木、太めの薪を拾い集め、空気が通るように井桁状に組み立てる。
火種を中央に移すと、組み上げた薪が一気に燃え広がり、炎が力強く揺れ立った。
「よし……これで本格的な作業ができる!」
陽翔はそばに用意してあった乾いた粘土の器を見つめる。
形は歪だが、底が抜けていなければ上等だ。
今は美しさよりも、"水を入れて火にかけられる器"であることが何より大事だった。
「さて、焼いてみるか……」
火の脇に小さな穴を掘り、その中に器を置いて、火の熱が間接的に当たるようにする。
急激な加熱で割れないように、じわじわと温度を上げていくのだ。
ひびが入ったら即アウト。
そんな緊張の中、彼はひたすら火の番をし続けた。
──しかし、最初の一個は熱でパリンと割れた。
二つ目も乾燥が甘かったのか、内部からヒビが走って崩れ落ちた。
「っくそ……!」
手間暇かけて作った器が割れるたび、心にもひびが入りそうになる。
だが、三つ目、四つ目の器は奇跡的に耐え抜いた。
焼き上がりの色はくすんだ焦げ茶色。底面を軽く叩けば、乾いたコンとした音が返ってくる。
「……できた。やっと……」
陽翔は土の上に器をそっと置き、熱を冷ます。
少し時間を置きながら、焚き火の火力も調整する。
「次は……煮沸だな」
彼の目は、確かな意志を宿していた。
火を得て、器を得た。
あとは、「生きる」ための水を清めるだけだ。