10)火を手に入れろ
二日目の夜が明けた。
陽翔は住処の入口から顔を出し、朝の冷気を吸い込んだ。
その空気は清冽で心地よさすらあるが、同時に昨日と変わらぬ、厳しい現実を突きつけてくる。
(……寒い)
日が昇っても、身体の芯の冷えは簡単には抜けない。
肩を抱くようにして立ち上がり、陽翔は静かに誓った。
「今日こそは……火を手に入れる」
昨日の失敗を踏まえ、用意しておいた乾いた木の棒と板を持ち出す。
きりもみ式だ。棒を両手で挟み、上下にこすって摩擦熱を起こす、古来から伝わる火起こし法。
「よし……っ、今度こそ……!」
手のひらを擦りむいたことを思い出し、葉っぱを巻いて即席の手袋を作る。
心持ち回しやすくなったような気がして、再び挑む。
ぐるぐるぐる……。
棒は回転するが、煙は出ない。
握力が足りないのか、力の加減が甘いのか、木が焦げる気配すらない。
「……くそっ」
手を止めて地面に倒れこみ、ふと視界の端に何かが映った。
——蔓。
昨日、即席の衣服を作るために使った、あの強靭で柔らかな植物の蔓が、住処の近くに這っている。
「そうだ……!」
脳裏に、かつてネットで見たサバイバル動画が蘇った。
——“弓切り式”火起こし。
蔓を弓の弦として使い、木の棒を高速回転させる構造。
きりもみ式よりも安定し、長時間の回転が可能だという。
「いけるかも……!」
陽翔は小枝を曲げて即席の弓を作り、蔓を弦として括り付けた。
棒を巻き付けて、板にくぼみを掘り、準備は万端。
息を整え、手を動かす。
ギギ……ギギィ……。
最初はぎこちなかったが、徐々にリズムが出てくる。
弓が左右に滑らかに動き、棒が高速で回転し始めた。
「……っ、煙……!」
くぼみの中から、わずかに白い煙が立ち上る。
胸が高鳴った。
この感覚は、初めて魔力を扱えた時に似ている。
可能性の扉が、今まさに開こうとしている——。
何度かの失敗を挟みつつも、ついに。
「——できたっ!」
黒く焦げた木粉の山に、小さく赤い火種が灯った。
それはまだ頼りなく、ひと吹きで消えてしまいそうな儚さを持っていたが、確かにそこに“命”があった。
陽翔は両手でその小さな火の粒を包み込み、そっと守る。
(まだ終わりじゃない……ここからが本番だ)