風邪症状
※この作品は深夜テンションで書いています。そのため、所々意味が分からない描写や展開があると思いますが、お気になさらず、生ぬるい目でお読みいただけると幸いです。
最近、鼻水が止まらない。頭痛も度々起こる。
風邪だろうかと思って医者に診てもらったが、医者からは「問題ない」と言われた。念のためにと風邪薬を処方されたが、一週間ほど飲んでも一向に治る気配はない。
――本当に何故だろうか?
疑問に思った私は、深夜の街を徘徊することにした。
理由は分からない。けれど、不思議と解決するような気がしたからだ。
そうと決まれば、早速出かけるとしよう。
私は玄関の扉を開け、冬の夜へと歩み出た。
一時間ほど歩いただろうか。私は公園のベンチで休憩することにした。
右手には近くの自販機で買った缶コーヒー、左手にはコンビニで買ったコーヒーを握っている。
男なら誰もが一度は憧れたであろう、二刀流だ。
私は左手のコンビニコーヒーを一度ベンチに置くと、その空いた手で右手の缶コーヒーの蓋を開けた。普段は右利きゆえに違和感のある操作だったが、案外逆の手でもいけるらしい。
小並感のある感想を抱きつつ、私は缶コーヒーを啜った。
口いっぱいに仄かな苦味とコク深い味わいが広がる。
これぞ王道にして至福の一杯。冬の夜ということも相まって、全身が感動するかのように震えた。
そして一口、また一口と飲んでいくうちに、気づけば一滴も残らず飲み干していた。
「……満足だな」
私は空き缶を片手に立ち上がる。そして、冬の夜空を見上げると。
「――それっ!」
思いっきり、空き缶を放り投げた。
何故かは分からない。不意に投げてみたくなったのだ。
まるで天まで届けと言わんばかりに投げられた空き缶。
だが、それは落ちてこなかった。
その代わり、どこからかうふふと笑う声が聞こえてきた。
――こんな夜更けに誰だろう?
私は周囲を見渡す。が、辺りには人っこ一人いない。
――まさか。
思い当たる節があった私は、再び首を上に向けてみた。
するとそこには、全身真っ白な女が宙に浮いていたのだ。
腰まで伸びた白髪がゆらゆらと揺れる様は、まるで雪柳のようである。
「さっきの笑い声は君か?」
私がそう問うと、女はぽつりと言った。
「えぇ」
「缶コーヒーを投げたのが、そんなに面白かったか?」
「えぇ」
「へぇー。変わってるな、君」
私は奇怪な彼女を見上げて言う。
現実ではあり得ない現象が目の前で起きているというのに、私の心は不思議と落ち着いていた。
一方、女は私の言葉が気に入らなかったのか、髪の揺れを止めて、
「貴方には、言われたくない」
と、低い声で私に突っ込んだ。
もしかして少し怒っているのだろうか? だとすれば、案外感情が豊かなのかもしれない。
「私、そんな変わってるかい? 自分では思ったことないけど」
「変わってる。だって、さっきからベンチのコーヒー、ずっと放置してる。それに、風邪症状あるのに、こんな夜に外でてる。これもう、変人」
変人とは心外な。というか、片言な喋り方の割に、結構ズバズバ言ってくるな。
どこまでもギャップが凄い彼女に、私は変に感心した。
「ははっ、意外と言うんだな。まぁいい、話し相手になってくれてありがとう。なかなか楽しかった。私はそろそろお暇させてもらうよ」
私は彼女にそう告げ、立ち去ろうとした。
すると、「待って」と呟く声が聞こえた。
「どうしたんだい?」
「私も、楽しかった。お礼、させて」
そう言って彼女は、私に片手を差し出してきた。
握れ、ということだろうか?
私は彼女の意を推測し、右手を差し出した。
刹那、彼女が私の手を握ったかと思うと、ふっと何かが私の身体から抜けたような気がした。
「今のは」
「貴方の風邪症状、治めた。これでもう、大丈夫」
その時、一陣の風が吹き、彼女の長い髪が揺れた。
そしてほんの一瞬、彼女の目が顕になった。
それはまるで、夜空に映える星のような美しい瞳だった。
だが、その記憶を最後に、私の意識は途切れてしまった。
気がついた時には、ベッドの上だった。
小鳥が囀り、日の光がカーテン越しに差し込んでいる。
頭上の目覚まし時計を手に取ると、時刻は午前八時を回ろうとしていた。
「……夢、だったのか?」
夢にしてはいささか感覚がはっきりしていたが、宙に浮く女という非現実的な存在がいたのであれば、それは夢と考える方が自然。
何より夢だと考えれば、突然深夜に外出したり、コーヒーを二つ買ったり、空き缶を放り投げたりという、自分の奇怪な行動にも説明がついた。
だが、まだ何か違和感がある。
なんだろうかと悩んでいると、私はとある変化に気づいた。
「鼻水が治ってる?」
さらに言えば、頭痛もなくなっている。
あれだけ薬を飲んでも治らなかったのに、たった一晩で症状が治っていたのだ。
「まさか本当に……」
その時、今度は部屋に違和感を覚える。
それはテーブルの上からだ。
なんだろうと思ってまじまじと見つめていたが、それに気づいた瞬間、私は開いた口が塞がらなくなってしまう。
丸いテーブルの上――そこに、コンビニのコーヒーと、揺れるような文字で「忘れ物」と書かれたメモが、並んで置かれていたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
今回は深夜テンション・プロットなし・約2時間で書きあげた作品です。何がしたかったんでしょうか()。
何も考えずにとりあえず文章を打ち込んでいたら、いつの間にかこうなっていました(後から多少推敲はしていますが)。
結局、風邪症状の原因ってなんだったんでしょうね?
それでは、次回の作品もまたよろしくお願いします(→ω←)