ありー・だしるゔぁ は かれらが きらい
伝書鳩の上層部に君臨するアリー・ダシルヴァはどこにも属さない面をした下っ端を睨んだ。下っ端と言っても彼だって位は高い。
だが、言動が気に入らなかった。
他人事でこの組織などどうでも良いと思っている。
そんな考えが透けている。
アリーは根っからの偽使徒であり、祖に忠誠を誓っている。それなのに、あの輩は。
「ミハル・ミザーン。貴様。記憶処理を受けなかったのか」
「え?そんな処置あるんですか?」
「…はあ、これだから。まあ、いい。で、祖は何と言っていた?」
「無理はするな、って言ってましたね。優しいひとですよ」
輝かしい笑みで彼は言ってのける。
(優しいひと?祖をそんな言葉で表すな)
「…で、新しい伝書鳩の子を紹介するんですが。良いですか」
ミハルが甘いマスクを活用しながらもこちらのアンサーを待つ。
「ああ、いいだろう」
「じゃあ、こっちに来て」
そういうと革靴を響かせて、小さな背丈の新人伝書鳩がやってきた。
「ゲーブル・ダッチバーンやけん。よろしくは?」
ゲーブルと呼ばれた少女は一礼した。
「アリーさんのいう記憶処理は受けてまして。だから安心して受け入れて欲しい…まあ、いきなりは難しいと思いますが」
「…ギャビー・リッターを殺めたスパイか。…祖の意向はこれだった、と」
ミハル・ミザーンの記憶を消さず、ダッチバーンの罪を償わせるための見張り番としてあてがったのか。
(はあ、嫌いだ。お前が。嫌いだと拒絶できたらどんなに楽な事か)
伝書鳩の組織内では同胞を拒絶してはいけない。それは祖の掟であるから。
嫌いだ。アリーは心中で何度も呟いてきた。コイツもアイツも。
「アリーさま、よろしくお願いいたします」
ゲーブルが無表情に口を開いた。その無機質な相貌はサリエリ・クリウーチを彷彿とさせる。
(あの娘は道を踏み外した。しかし、決して嫌な輩ではなかったが、こういうヤツらばかり残っていく)
「よろしく。伝書鳩としてきちんと働くように」
「はい」
「じゃあ、アリーさん。オイラたちは支部にいきますので。お元気で」
互いに別れの挨拶をすると、二人の背中を見送る。
「嘘つきめが」
彼は嘘をついている。ギャビー・リッターは記憶なんて失っていない。
──え?そんな処置あるんですか?
最初にそう言っていた癖に。
(ああ、腐っている。あんなヤツらが普通に存在する世の中が、嫌いだ)
アリーさん。
捕まったら、くっ殺!となりそうな人(?)。




