いそーろう
「この人、どっかで見たような??てか、人間じゃないよな?」
乎代子は廃墟化したアパートで、ラファティ・アスケラが手を引いて連れてきた子供を見た。
終始ヘラヘラとして、年齢とは不似合いなグレーのスーツを着た女の子。
「あー、ほら。お世話になったろ。サリエリ・クリウーチって」
「え!?」
サリエリ・クリウーチ。天使代理人協会の頂点に立つ、凛とした人物。
その美しいブロンドヘアーは濁り、背筋を伸ばしていた様相とは変わり果て、年相応の幼さがあった。
「色々あってこうなっちまったんだ。俺も天使代理人協会から伝書鳩へ出戻りする事になった」
「へ、へー。天使代理人協会は?」
「サリエリの意思を継いだヤツがやってる。それは平気なんだが…その」
彼はバツが悪そうに、彼女を一瞥する。
「乎代子。お前の部屋で居候させてもらえないか?食費とかはもっと負担するし」
「いや、ちょっと。居候って…私、この人とあんまり話したりしてないのに」
「大丈夫。まともに話す頭もないから」
半泣きに近い顔でラファティは言った。あれだけ怖がっていたのに、いざこうなると、親しみを寄せていたのが浮き彫りになる。彼らにどんな思い出があるのかは知れないが、乎代子は困り果てた。
「泣いたり叫んだりはしないんだよね?」
「しない。ただ笑ってるだけだ」
「まー…ならいいけど…」
もしも豹変し、廃墟化したアパートで暴れたら、一発で近所にバレてしまうだろう。パビャ子にお守りを頼もうかとも考える。
(アイツが普通に過ごせる?…想像できない)
「お試しでもいい!とにかく預かってくれ!じゃないと伝書鳩たちに処分される。それだけは」
「処分?わ、わかったよ。無理だったら連絡するから」
「ありがてえ!乎代子、この恩は一生忘れないから!」
(う、うさんくせええ)
感激するラファティを前に、引きつった笑いをしているとサリエリが手書きの名刺を渡してきた。
「くりらーち?」
「ああ、多分、癖でやってんだよ…」
悲しみにくれ、彼は名刺を受け取れと促してきた。
しょうがなく受け取ると、彼女はさらにヘラヘラ笑う。
「よ、よろしくね…」
こうして乎代子の家にサリエリの成れの果てのお試し居候が始まったのだった。




