いぎょう じょうさい の しゅうえん!(第17話)
多多邪の宮さん迷宮シリーズです。
どこの箱にバティが入っているのか分からない。とにかく手当り次第に開けるしか無さそうだ。
二人がかりで施錠のない、重たい蓋を開ける。中には確実に死した老人が数人、複雑な体勢で詰め込まれていた。こちらは腐敗はしておらずミイラとなっている。
…違う。この箱じゃない。
何箱も開けていくが終わりがない。腐乱死体たちの宴の横で、二人は疲労に息を上げつつも静かに息を殺していた。
「た、助けてくれえ!!俺は間違っていたんだあ!こんなの!極楽じゃない!」
いきなり箱の中の人が叫んだ。まだ状態もよく、服装から最近迷い込んだのか、酒を飲む量も少なかっただろうか。
「ヒッ!」
様々な事をしていた信者たちが一斉にこちらを向く。
「なんだ?」
「…ええ?極楽じゃない?」
「ここが?極楽じゃあないって?タタラバでそのような事をいうか」
「なにをいう。異教徒めがっ!」
ドロドロに溶けた眼球が機能しているかはさておき、気づかれてしまった。
「バティ!おまいさん、どこに封じられてるん?!」
「あっちガウ!」
ザラついたディスプレイ内のバティが指を刺したのはまさかの獅子の鉄扉だった。
「マジかあ!ギャビー、ソイツらを一網打尽にしろ!」
「は、ハア!?できるかよっ!」
「異教徒めっ!さらし首にしてやるっ!」
溶けてグチョグチョになった肌を振り回しながらゾンビたちが迫ってきた。それに狼狽えていたが、ギャビーは何か思いつき手のひらを開き──何かを引き寄せる仕草をした。
彼女の眼前に長方形の暗闇が出現し、ゾンビたちがはたと足を止めた。
「な、何だと…極楽だ!極楽が現れたぞっ!ああ、我々の祈りは通じたんだ!」
「ああ、なんとも美しい!」
そう言うや彼らはいきなり現れたドアの中に駆け込んでいった。それは死に物狂いで。
「何をした?」
「奴らの極楽へ連れて行ってやったんだ」
汗を額に垂らしながら消え入るように言う。
「ここの火山の中に」
ミハルは呆気に取られたあと、天才やん!と目を輝かせた。
「さあ、あの鉄扉をあけ──」
彼の意気込みを遮るかの如く、大きな地震が起き、二人は地面にしゃがみこむ。近づいてくるかの如し地鳴り、閃光にミハルは慌てて光り輝く剣を召喚する。
「早くしないとぶっ飛ぶぞ!」
「え?え?」
身軽な動作で箱を飛び移り、彼は剣を固く閉ざされた扉の間に差し込んだ。金属と金属がぶつかる音が爆音にかき消される。
「目を覚ませ!火山!お前はずっと封じられてきたんだろ?!もう神はいない!神はいないんだ──」
鉄が焼けるにおいがして、獅子の顔が左右に割れた。タタラバからドバリとマグマが溢れ出し、二人はコンテニューした。
火花と雷光が辺りを照らし、鳴動する。赤々とした熱気を放つマグマが空を照らした。
「あああ!やったー!外だっ!娑婆の空気だあああっ!」
封印から開放されたバティは嬉しさのあまりに『地団駄を踏む』。「ああ、久々の夜空!久しぶりの体の感覚!最高だっ!」
その地団駄がほぼ崩壊した建物をぐらつかせ、ミイラ化していた赤子たちが一斉に泣き喚いた。
「嗚呼、思い出したぞ!僕はバティなんて名じゃない!蜾蝃歯禔 仏蛇吊宿禰だ!」
黒々とした夜空に叫ぶと、彼は金色の瞳を爛々と輝かせる。それと呼応するように火山が噴火した。
「さあ!叫べ!母親を呼べ!お前たちはもう苦しまなくて済むのだ!」
マグマにもみくちゃにされたはずの奇形児や赤子が泣くと、どこかで地鳴りがし、空震が足場を壊す。
「呼べ!大地の母を!揺らせ!穢れたヤツの痕跡など破壊してしまえ!」




