はっかくどう(第13話)
多多邪の宮さん迷宮シリーズです。
変に燻されたような…辛いだけの香の薫りがした。サイケデリックな絵がひたすらに描写された中央部・八角堂にやってこれたみたいだ。
三つの塔楼とは段違いの大きさで、まさに中心部といった所か。寺院に匹敵するほどので規模である。
八角堂の天井には女体の腹から様々な悪鬼が生み出されている絵が描かれていた。赤鬼青鬼、魑魅魍魎。様々な悪趣味な生き物が空へ放出されている。百鬼夜行よりもタチの悪い、魔物たちのパレードだ。
「ヒイッ。なんつー絵だよ…」
ギャビーがやっと正気に戻り、体を強ばらせた。
「おまいさん。シリアルキラーの癖にホラー耐性低すぎやしないか?」
「シリアルキラー?お、俺がいつそんな事を?!」
「覚えてないんか。ん、あれは?」
「ヒギィッ!」
寺院でお馴染みの轟々と火をくゆらせる護摩壇。それは良いが…御堂の中心で何やらか細い悲鳴を上げている何かがいる。
赤子を無理やり取り上げられた母親らしき生ける屍が、痛みにのたうち回りながらも未だに動いていた。産婆たちが体を押さえつけ、拘束している。
血は乾燥し、赤黒い跡だけになっていた。
何とも痛ましい風景である。常人がやる所業ではない。
服装は昭和後期を思わせる流行りのもの。もはや数十年たったはずなのに、あの女性は腹を裂かれたまま生きている。
「先程の酒を飲むと、ああなるガウ」
「不老不死みたいな状態になるんやね?」
「んー、少し違うガウ。まあ、人間してみればそんなモンガウ」
この空間の異常さを、謎の酒とやらの力を思い知る。だが彼女たちは同じ行動を繰り返しているだけで自我はなさそうだ。
「飲むの断って置いてよかったわァ」
赤子はミイラ化しているが、さびた金属が擦れるような音で喚いている。額には謎の石がはめ込まれていた。今まで目にした瑠璃ではない。赤黒い無骨な石。なんだろうか。
「アの赤子は『金久蘇』と呼ばれる神の依り代、らしいガウ。母親は『伊邪那美神』と呼ばれた、神子のような役割を与えられた人間ガウ。邪火炎を宿す、護摩壇の前に行ける者は数少ないガウ」
「ふぅーん?依り代なんて、大層な物を作るなんて」
依り代なぞ作れば多多邪の宮ではない他のこの世の者でない部類も寄り付いてしまうではないか。
祭神が無責任なために、悪い存在や淀みが続々集まってきてしまう。
先程、金山毘古神と関連があると彼は言っていた。なら伊邪那美神がいても不自然ではない。伊邪那美神から生まれた火之迦具土神という火の神により、金山毘古神は派生したのだから。だからと言って人に当てはめても意味は無い。
成す事やること、全て裏目に出ている。
「狂ってやがる。も、もう、帰ろうぜ」
八角堂の大きさがイマイチ想像しにくくて、申し訳ないです。
赤ちゃんの額に埋められているのはスコリアです。




