きぶつはそん(第10話)
多多邪の宮さん迷宮シリーズです。
「神なんていないガウ。多多邪の宮みたいな胡散臭クソ野郎な輩がこぞって神を気取りたがるガウ。まあ、アイツはおもしろがって老人に永遠の命を与えたガウ。邪神ガウ」
ギャビーはうへえ、と嫌気がさした。そう簡単に永遠の命を与えられたら常人なら発狂するだろう。
「面白がるもんなのかよぉ」
「…アイツは人類がまだ未熟だった頃、祖に掬われたヤツガウ。良くも悪くも無垢なお子様。価値観がおかしいガウガウ」
やれやれ、と彼は小馬鹿にした。むしろ太古の化石が生きているのにミハルは内心、感慨深かった。いつから祖は存在しているのか。スラッジにしたって数多の妙ちくりんな存在たちは一直線上の時に従い生まれてきた。
逆戻りも、未来へワープすらできないのだ。
それは確かな事だった。
(弱体化した今でもスラッジより力が強いのは確かに厄介やね…)
「その老人…まさかクソでけえ化け物になって襲ってこないよな?」
「はぁっ?ゲームのしすぎやん。クソでけえ化け物になったら本末転倒やんけ」
苦笑するも彼女は挙動不審に敵が来ないか確認している。戦闘経験が浅いのか、何事もおぞましく感じるようだ。
(被害者側になると途端に使えなくなるタイプか)
二つ目の塔楼にくると内装は瓜二つであった。そうしてミイラ化した赤子が金でできた花に囲まれ、祭壇に置かれていた。赤子はどうやら複数を繋ぎ合わせたもの。
目には瑠璃が嵌められ、同様舌が長く伸び、腹に銀の鎖が巻かれていた──
「こりゃあ、あれ、あれだ。腹になんかくるんよ、絶対」
「串刺し?止めてくれよ。二度目はもう…」
「大丈夫ぅ?もう限界なぁん?」
「う、うるせえよっ!──わあ!」
ミハルは仕方なし、と彼女を担ぐと隠し扉があった方に向かい、持ち前の剛力で勢いよく壁を殴った。バキイ!!と大きな音を立て廊下が現れる。
「あっ、器物破損ガウ」
「まーまー、こんな異界なんて警察も知らんよ。で、赤ん坊に触ると何が起きたん?」
「えーっと、この塔楼はうんちが出るガウ」
それを聞いたギャビーが震えた。「何考えてんだよ。おめーらはよ!」
「これもちゃんとした理由があるガウ。えーっと、三十八ページ…老人が金山毘古神と同一視したようで、神話になぞってはいるみたいガウ」
「金山毘古神。鉱山の神さまかい?」
「よく知っているガウガウ」
彼は頷くと、こちらを心外そうに見つめてきた。
ミハルは訳あって日本神話を調べた事がある。その際に地方で目にした神だった。日本の文化を知るために日本各地の神社や、道端の石仏を視察旅行をしたのだ。
「大雑把に言えばそうだガウ。説明書にはつらつらと書いてあるが割愛するガウ。『舞う奈朝はたたや夜の命』、…それがあの野郎に付けられた名前だったガウ。朝まで舞い、夜までタタラを踏むのを鼓舞する…そんな神だったらしいガウ」
「ふぅーん。意外と普通の名前、つけてもらってたん」
タタラを踏むのを鼓舞する、という事はやはりここも鍛冶屋が多かったのだろうか。
「老人が狂う過程で名称も変わっていったガウ。割愛するガウガウ」




