たたらじんじゃ へ ごー!(第2話)
多多邪の宮さんの迷宮シリーズです。
「スマホ置いてきた。あー、クソッ最悪」
ギャビーが懐中電灯で木を照らし、悪態をつく。
「持って来ても速攻割れそうやん」
「…。ミハル・ミザーンさんはスマホ持ってんの?」
胸ポケットからスマホを取り出して、時刻を確認する。二時十七分。
「ハハ!圏外だったわぁっ!」
「画面粉砕し過ぎて見えねえよ」
画面がヒビ割れてもはやそのようなデザインと見間違えるほどの有様に、彼女はボヤいた。
「物は使いようなんよ。コイツはまだ動いてる、機種変するのは勿体ない」
「いや、修理に出せや。…圏外なんだろうつーのは予想内だ。それにここはどうやら関東ではなそうだ」
「よく分かるな〜。ここはな。中部地方にある、修験道が盛んだった場所なんや。まあ、山の上だし電波は悪くて当然だわな」
「いや、関東地方だったら瞬間移動しないだろーなって思っただけなんだけど…」
(変なところで人間感覚なん…)
見渡す限り木しかない。民家の明かりすらないのだ。人里離れた場所へやってきたのは一目瞭然だった。
「どこに神社が?」
「えーっと──」
「お二人さん。踏鞴神社へ参るのかい?」
いきなり声をかけられ、二人は無言でびっくりした。気配もなく現れた老人が笑顔で佇んでいたのだ。
ヤッケを来た後期高齢者の男性である。能面の翁の如し笑みが懐中電灯に照らされ、薄気味悪さを倍増させていた。
もしかすると山を管理している原住民なのか?
あちらも心霊スポットとして荒らされて辟易しているのかもしれない。
「そ、そう。踏鞴神社っていう…あ、別に心霊スポットを見に来たとかじゃないんよ。神さまを調べにきたんや」
腰の曲がった老人は頷き、喜ばしいと受け入れてくれた。通報されたらたまったものではない。
「それはそれは。嬉しい限りだね。踏鞴神社はもう少し歩くとある。案内してあげようか」
「ありがとうございます」
(怪しいけどまぁ、見るからに凶暴なこの世の者でない部類では無さそうだけん)
化けてから食う輩もいるが、この老人から何としてでも神社へ連れて行きたいという強い意志を感じた。
「あ、あのぉ、おじいさんはどっから来たんですか?」
「神社の近くだよ。麓の村とどうも気が合わなくてなあ、敷地の管理がてらに山の所有者に許可を得て住まわしてもらってる」
「へえ。びっくりした」
ギャビーがホッと胸をなでおろしている。
「私の方が驚いたさ。懐中電灯の光があると思って、見に行ってみたらあんたらがいるのだから」
「計画不足で夜になっちゃったんよ…すいません、ホント」
嘘をついて通報をま逃れようとしてみたが、相手は気にしていないようだ。
「オイラ、郷土史を調べてる連中でしてね。まー、怪しさ満点ですが」
「なるほど。確かに怪しいわ」
笑われて、こちらも苦笑するしかなかった。




