みはる と ぎゃびー のまよなかたんさく 【開始】
前に投稿したのを移動?しました。
多多邪の宮さん迷宮シリーズ開始になります。ヘイッ!
ミハル・ミザーンは清楚凪 錯迷のみならず多多邪の宮の出現に、少なからず恐怖を覚えていた。
あれだけ──過去に一度相まみえた錯迷を阻むために頑丈に結界を張ったのに、いとも容易く侵入されてしまうなんて。並大抵の化け物ではない。これまで世界を舐め腐っていたと、自分自身は甘ちゃんだったと痛感させられた。
悔しい。なぜならミハルは魔法が一番上手いと自覚している。それにこれまで魔物・化け物たちの使う妖術に負けた経験はなかったからだ。
だからミハルは敵を事細かに知る事にした。
胸に闘志を秘めた彼は転居した天使代理人協会の事務室に忍び込み、最新式のカメラレンズが何個もついたスマホを観察していた。
持ち主はギャビー・リッターである。スマホを自転車に轢かれたそうで、やむなく新しくしたそうだ。この前もチャレンジしてみたという電子タバコを破壊していた。
「なあ、ギャビーちゃん。多多邪の宮の神社いってみん?」
「えっ?な、何で…いきなり?」
封筒を仕分けしていたギャビーがびっくりし、こちらを振り向いた。
「アイツらのルーツを探れば、何となくこー、しっくりくるかもしれん」
「ルーツ、ですか…じゃあ、ミハルさんのルーツは何ですか?」
「あ?オイラかぁ…スラッジつう、泥の塊やけん。ギャビーちゃんは?」
「無明のカルーセル、ですよ…」
(ンだそれ?カルーセル?あの回転木馬?)
曖昧に頷いて、眼前にいる『ギャビー・リッター』を分析する。芝居はしているが彼女は半ば隠す気もないらしい。
白いスーツの裏側が血染みだらけなのも、ミハルにはバレバレだ。
「あの黒いスーツ集団はどんな始まりなんやようね」
「さぁ…有名なのは神さまがいきなり、光あれ、と言えば世界を創り出せる…気まぐれな存在なんです…なので知り得ません」
「そーかね。そーかもね」
「何ですか。聞いてきてそれは無いんじゃないですか…」
少なからず不機嫌になり、封筒の束をデスクに置いた。
「神さまなんて居ない。神さまを名乗る偽物はたーくさんおる」
「ああ、そういうお考えですか…」
「そう。オイラは神さま、つーのはあんま好かんのよ。人を騙すヤツの常套句やん」
スラッジは物言わぬ祖だ。泥から数多の同胞を生み出し、または受け入れる。神さまではない。
「変わった人ですね…天使のくせに」
「天使じゃないけんね。偽物!」
ニカッと笑うと、ミハルは威勢よく腰を上げた。また喫煙所へ行くのだろう、と仕事に集中しようとすると彼が何かを発動したのだった。
「え?あ?」
ポカンとするスパイに、彼は内心得意になった。魔法は得意分野なのだから。
「多多邪の宮の神社がある場所にワープしました!パチパチパチー」
「は、ハァ!!?し、仕事お!」
ワーカーホリックかい、とツッコミを入れるも邪険にされる。良いじゃないか。
(遊ぶのも必要だけんね。この現し世では)
「あのよ、どうやって多多邪の宮?の神社だって特定したんだよ。アイツ、彼岸に居るんじゃないのか?」
「おお、そーいう口調なんか!」
「ハァ…芝居すんの疲れたんだよ!オメーのせいでサリエリに疑われたら訴えるからな!」
「サリエリちゃんは間抜けだから大丈夫大丈夫。サクメイの件で、めっちゃ悔しかったんよ。だからオイラ血眼で調べたん」
腕を組み、彼女は聞いてやると言わんばかりの態度で黙り込む。
「多多邪の宮はパーラム・イターが暴れとった時代まではちょくちょく此岸に居たんだと思う。アイツ、パーラムには激甘やけん。不祥事がある度に揉み消してたはずよ。で、パーラムの最後の本拠地の近くを調べてみた訳じゃ」
「…その、パーラムなんちゃらは知らねえけど。アンタの執念には感服するわ」
「ありがと〜」
「チッ」
──パーラムの居た神社からやんわり遠くに所在不明の神が祀られている巨大な神社があった。
現在は神主や氏子たちが絶え、管理されず廃社となっているのだそうだ。人気のない山奥のはずだが、たまに騒々しい声や人の気配がするので心霊スポットとしては有名なのだという。
神社が完全に廃墟となったのはつい最近、平成初期である。とある風習があったため…麓の村の人たちは村の鎮守には合祀せず、特殊な信仰には触れないようにしていたと、オカルト雑誌の取材に応じた。
また社殿がある場所は神隠しとして有名な山である。現在でも山菜採りに来た人や登山客が行方不明になる事が絶えない。
「へー。コテコテの心霊スポットじゃん」
「だろ!?ワクワクするぅ!」
「オメー遊びに来たの?」
「それもある。けどやっぱ多多邪の宮や。詰めが甘いんよ。いきなり信仰がドバーンと湧くわけないやん?それを普通にやっちまったんだ。パーラムの時間感覚がかなーり雑なのいい事によ」
信仰というのは根源となる精神的な価値観がある。日本で原初の人々の自然崇拝から神道へ変化したように、いきなりできあがった信仰は出現しない。
一神教も前に多神教や、派生するための基盤がある。なのに多多邪の宮は未知なる文脈を作り出してしまった。
「それも後始末せずに、彼岸へ帰っちまったんだ。周辺の森羅万象すらおかしくなる」
「あー、なんつーか、規模が大きすぎて想像できないな」
どこからか、懐中電灯を取り出し辺りを照らし始めた。
(ノリノリやないかい。なら、探索開始やよ!)
ミハルさんの方言は決まっていなくて、どこの地域でもないので、あの、すいません…。
ただやんわりとした北信弁と埼玉の「るん」と「なん」は使ってます。
(あまり関係ない話です)
ギャビーさんは埼玉特殊アクセントという喋り方をしています。まあ、要は私の地域で話されているアクセントです。
少々荒っぽい喋り方に聞こえますが、きちんと由来があるんですね。知りませんでした。
葛飾方言とも言われているそうです。
追記
口調が訳分からなくなってきました(笑)




