どちらが まもの か?
多田 香純はぼんやりと寒空の下、陸橋のトンネルに佇んでいた。
最近、パビャ子たちに会わない。
白昼夢か、幻覚だったのか──自分自身の安息はあっという間にさらわれた。
詩的な表現をするのならばトンネルの向こう側を知ったからか?
血みどろの延々と続く逢魔が時の現実に身を置いてみると、夢見ていた破壊衝動はただのおもちゃであった。何かが異なるズレた世界では無力な。
後輩の血抜きを手伝う事も、死人を介護するのも。
現実の延長線でしかない。苦悩を伴う…。
「──つまらないの?」
頭上から声がして仰ぐとハレンチな服装をした子供がコンクリートに立っていた。こちらが天井にいるかのような錯覚を起こす。
「えっ」
「すごくつまらない顔をしてるじゃない?」
「そんな、いきなり何…」
悪魔?まるで世間一般が描く通りの尻尾がユラユラしている。今度は悪魔が現れた。
「手を取ってみない?こっちのセカイはたのしーよ」
天と地がひっくり返した現状で、子供はイタズラっぽい笑みで誘ってきた。
「…」
手を取ろうとしたら、横から大きな手がかっさらた。驚いて横を見ると日本人ばなれした美形な青年がいる。いつの間にやってきたのだろう?
「ちえっ!どいつもこいつもっ」
ぶうたれた子供はピョンと地面に降りると、光り輝く陽だまりに消えていった。
「あ、あの」
「あれは良くない者ですよ。簡単に手をとってはなりません」
棘のない優しい声色に、香純は目を白黒させる。こんな美麗な人が現実に存在しているなんて。
普通ならメロメロになるだろうが…怪しくて反対に恐怖にかられた。
「すいません。通りすがりに見てしまいましたから…」
「あ、いや、ありがとうございます」
「この世の者でない部類が見えるのですね。それに、良くない匂いがする」
「あー、ちょっと…はは…」
詳細を語るのは野暮なので笑いではぐらかした。
「日辻 天鷹と申します」
甘いマスクに不信感が募る。未成年と仕事着の男性が二人して公園で缶ジュースを手にしているのはおかしな光景であった。
「私もこの世の者でない部類が見えるんです。それに鼻もきく」
「大変ですね」
それには同情する。自分自身もそれで大変な思いをして来たからだ。
「えっと…何と呼べばいいですかね」
「あっ、私は多田 香純といいます」
彼は美しい顏を綻ばせた。
「多田 香純さんですね」
(あ、れ?)
なぜだか、やってはいけない事をした気がして、ザワッと肌が鳥肌たった。
(あ、私、ミスった?でもこの人も名前を)
「これからよろしくお願いいたします」
多田 香純ちゃんが久しぶりに。




