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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜 ☆litとInsane☆  作者: 犬冠 雲映子
キリトリセン(サリエリちゃんの開かず扉の鍵、隠し神編、他)
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わたしはここにいるよ

サリエリちゃんシリーズになります。

「おい!どこだよ?尾先ヶ 間蔵っ!ハアッハアッ…クソ…」

 いくら呼んでも彼女の姿は確認できない。あれだけ騒がしく付きまとってきたのに。

(狐につままれたような最低な気分だ)

 ──寺の横に懐かしい花が咲いているのを見つけ、悪態を着く気力さえ無くす。百合に似ている。白く、それでいて美しく、闇に溶けいる妖しい花。

 脳裏にこの花束を抱えた女性が蘇る。はにかみがちの顔が可憐で、こちらをたまにいたずらっ子のようにからかう──あの娘。

「ギャビー?ギャビー、」

 ダチュラを花屋で買い、彼女へ何度も渡していた。それが彼女との数少ない接点だったから。

「ギャビー、どこにいる?あの日、ここで」

 ギャビーは秘密でダチュラを育てている人の元に連れて行ってくれた。

 ──私たち、人じゃないけど学校の帰りみたいじゃない?楽しいなぁ。

 ──サリエリちゃんと一緒に学生生活してるみたい。

 眩い笑顔を横目に、サリエリは伏し目がちに静かに頷いた。

「あのあと、何を言おうとしたんだ?何で話を逸らしたんだ?」

 彼女は言いかけて、寂しそうに笑った。

「狙われていたのか?なら僕に──」

 地面に転がっていたあのロータリータンブラータイプの鍵が弾け、どこからか錆びた蝶番の音がした。あるはずのない空間に、ドアがあった。長方形の切り取られた異空間。

 向こう側は高原地帯の清々しい景色が広がり不自然さを醸し出している。

「ギャビーはそこにいるんだな?そうなんだろう?尾先ヶ 間蔵!」

 応答もない。

 これがヤツの小屋なのだろうか?分からない。進むしかない。

「ちくしょうっ!」

 向こうへ行くために助走をつける。今にも閉じられそうな気がしたからだ。

 無理やり、体当に近い体勢で草原に飛び込み、爽やかな風を浴びながらサリエリは睨みつける。

 邪視の魔法を込める。

「正体を表せ!ダッチバーン!」

 そう叫んだ瞬間、景色が放送を写す液晶画面の如くバグりだした。バラバラの色彩が走り、清涼さだけの高原は消失し、背骨だらけの小屋に変貌する。食肉用の工場のようだった。

 埃臭い暗い食肉工場の跡地。

 何百人の背骨だろうか。吊り下げられた中からギャビーの物を探そうとする。骨の髄まで、何て言葉があるが…そこまで彼女を知らない。

「どこにいる?どこに…」

 頭上で雷が鳴り、視界が暗転した。小屋が解体する。これはハリケーンか?

「ぐあっ!」




 無重力空間の中、鼓膜が微かな音を拾う。陽気な音楽と光が瞬く方へ泳ぐ。水流に乗る泡が示す方向へ向かい、やがて水面に出た。


 サリエリちゃん。


 サリエリちゃん。わたしはここにいるよ。


 見つけて。


 サリエリちゃん、やっと来てくれたんだ。嬉しいな。


「何…」

 巨大なメリーゴーランドが頭上で周り、煌びやかに発光している。奇妙だ。巨大すぎて人間は乗れないぐらいなのだ。

 己が浮いている水槽のような円形の建造物。水中には人らしきモノが漂い、回転に合わせて流れていた。

 数多の死体の中、視線を彷徨わせ──()()か必然か。ギャビーを見つけ抱きしめる。

 青白い顔をした彼女は二度も、いや、三度も死んだのだ。

「ごめん。ぼくは…君へ、何も、関心を持たなかったために…」

 サリエリは強く離すまいと渦の中、希望──奇跡を願った。

「居るはずのない神よ。僕に加護をください。奇跡を、あるはずのない奇跡を」

 きらびやかなメリーゴーランドがゆっくりと速度を落とし、消灯していく。

(──これが奇跡なのか?)

 来客のない遊園地は真っ暗になり、息をしているのはサリエリだけになった。

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小説家になろう 勝手にランキング

かなりランキングに向いている作品とは思えませんが、ぽちィーーー!!!としてくれるとマンモスうれピーーーー!!です。

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