表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜 ☆litとInsane☆  作者: 犬冠 雲映子
キリトリセン(サリエリちゃんの開かず扉の鍵、隠し神編、他)
70/169

さりえり さいしゅう きょくめん

サリエリちゃんシリーズ。

「あっ!」

 切り裂く痛みと、汗水とは異なる血のぬるみにギョッとし、咄嗟に手を開く。しかし傷も血液もない。ただの無機質な鍵があるだけだ。

「な、なんだよ…焦らして」

「見てください。鍵が」

 間蔵の通りに鍵が空へ向いていた。天空は木々の葉に覆われて見えはしないはず。

 月明かりも、星すらない。そもそも──

(嫌味ったらしい森だ)

「木を登りましょう。ふふんっ!マクラちゃんは木登りが得意なんですよ〜」

「はあ?木を登るなんて」

「ほら、アレ」

 指を指した方向に、不気味な大木があった。葉が逆さまに生えたグネグネとした幹を地面に突き刺し、コブだらけの木の表面が丁度足場になりそうではあった。

「どこまで続いているんだろうか」

「登れば分かりますよ」

「あー、…嫌だな」

「なら契約料をふんだくって終わりにしましょうかあ?」

「わかったわかったっ!」

 半ば意地で奇妙な木に登る羽目になり、非力なサリエリは数十分で疲れ果ててしまった。硬い木の皮が皮膚を痛め、白い生地を汚す。背中や額に汗を滲ませ息を整えた。

 下を見るなとはよく聞くが、はるか下の地面へダイブしそうで指が汗まみれになる。

「も、もう動けない…少し休まないか?」

 尾先ヶ 間蔵は意外そうな顔をする。「もう?もうですか?」

「当たり前だろうっ!僕は力仕事担当じゃないし」

「なら、おぶりましす!」

「は?え?」

 強靭な力で背負われ、彼女が突風のように木を駆け上がっていく。

「飛ばしていきますよぉ!しがみついててくださいねえ!」

「う、ううっ!もう少し動きを抑えて!」

「無理ですっ!ヒャッホーい!!」

 まるで野猿の如く軽快さに、必死に背広にしがみつき呻いていると、風の音を振り切り宙を舞った。

「わあ──」

 あの奇妙な木はくらい森に根を張ってはいなかった。反対の上空に生えていたのだ。あの森は姿を消した。

 ──二度とたどりつけない。もう。二度と。引き返せない。

(後悔なんてしていない。例え僕が死のうが、自分で選択した道筋なんだから──)

 酷使した指先の力がなくなり、下へ、重力に伴い落ちていく。春の夜風に傷つけられながら、

「いたい!ゲホッゲホッ」

 砂利に叩きつけられ、サリエリは辺りを見回す。知らない街並みが広がり、知らぬ境内にいるのだと察した。大きな楠が夜空へ幹を伸ばしている。

「尾先ヶ 間蔵?何処にいった??」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング

かなりランキングに向いている作品とは思えませんが、ぽちィーーー!!!としてくれるとマンモスうれピーーーー!!です。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ