まあそんなふうに
「…人気SF映画じゃあるまいし」
コンビニの前で炭酸ジュースを口に含み、ここ数日付きまとうしつこい胸焼けを治そうと試してみる。
炭酸ジュースはその場しのぎで、まだしばらくしたらぶりかえす。
パーラムのやりたい事を何となく理解した。幽霊列車の事故を未然に防ぎたいのだろう。
脳裏に美しい女性が浮かぶ。清楚凪 錯迷をとらえたまま儚く去っていった。あの女性ほどパーラムは無機質ではない。
独善。無鉄砲。
…気まぐれ。
洞太 乎代子は人のために動く優しい人ではない。それに気まぐれに付き合うほど火遊びも好まない。
「春は苦手だなあ」
春の陽気にやはり気後れして、ぼんやりと夜の淀んだ星空を眺める。オリオン座すらぼやけてどこにあるか定かでない。
いや、オリオン座がどれでもオリオン座に見えてしまう。星座盤を持っていれば分かるのだろうが、そこまで余裕がない。
しかしどこか違和感があった。
「よッスよッス。奢ってくんろ」
パビャ子がゴマすりしながらやってくる。腹が減ったのだ。
「はー、うざ」
「えーひど」
「割引き商品なら買えるけどそれでいい?」
「もちのろん!!」
顔をパァーッと輝かせて茶髪オンナはコンビニへ入っていった。
「呑気でいいよ、呑気で」
「わあァーーーーーーーーー?!?!」
「うるさっ、何?」
パビャ子が自動ドアの内側でびっくりしている。さっきまで明るかった電灯はない。商品棚もレジも。
「え」
手元にある炭酸ジュースは存在していた。だが、コンビニはいつの間にか閉店してテナントになっている。
「ええーっ、乎代子!どうやって炭酸ジュース買ったの!?」
「え、さっきまで営業してたから」
自動ドアを無理やりこじ開けて、茶髪オンナは出てくる。どうやら貼り紙には2月には閉店していたらしい。
(いや、2月も買いに来ていたんだけど?私は空気を食っていたのか??)
「私たち異界に来ちゃったとかじゃないよね?大丈夫?」
辺りを見回すも変わった箇所はない。変わったのはさっきまで駐車場に停車していた車が忽然と消えたのみ。
「違う世界に来ちゃったみたいだ」
口に出して、パーラムの選択が自分を異なる分岐へ移動させた──そんなへんちくりんな答えが浮上する。
「パビャ子は乎代子と同じ世界から来たよ」
「はは…」
コイツはどこでもコレだろう。
「サイダー。もったいないけど捨てよう…」
得体の知れない物体に思えてきて、炭酸ジュースのペットボトルを眺めた。




