ねおてにー な ゆうえんちでは
トーローテレイン・フープは世にいう『kawaii』と呼ばれるキャラクターを眺めながら、鼻歌交じりにマニキュアを塗っていた。kawaiiは日本の文化らしい。その他は存じ上げない。
しかし日本人は成人が子供向けのコンテンツが好みだと、『外国人』のフープも感じられずにはいられない。
可愛らしく明るいだけの、狂った施設にはお似合いなネオテニーなキャラクターたちを並べ、毎日を過ごす。それだけでも心の支えになるものだ。
暇を持て余しているとはいえ、身だしなみには気をつけたい。怠惰になった同僚──イスラァヤのようにはなりたくはない。
「へー、そのくすみカラー。懐かしいねっ」
いきなり声をかけられ、椅子から転げ落ちそうになった。
「ど、どうやって入ってきたのよ?!?」
「え?普通にセキュリティがザルだったからー。こんばんちは。ジゼル・クレマンです」
ニッコリと破顔したジゼル・クレマンなる人物は古めかしい制御機器を眺めた。
「なんか埃っぽいなー。ちゃんとお掃除してる?」
「しょうがないでしょっ!安く雇われてるんだから!それに下手に触ったら危険なのっ」
「あらら。可哀想に。でもまあ、そんなものかー」
えへへ、と子供は笑うとキャラクターたちを見た。
「可愛い〜。趣味が合うね」
「お世辞どうも。出てってよ。バレたらやばいんだからっ」
「別にバレても貴方がクビになるだけじゃない」
サラリと恐ろしい言葉を吐くものだから、フープは戦慄する。自分がクビになるのは死を意味する。あちらはそれを知っていて、そんな事を言うのだ。
「操縦室の知識はあるの?あれ、タービンでしょ?そんな軽装備で大丈夫なの?」
「何?なんなの?」
「貴方、ここでマニキュア塗ってて大丈夫なの?」
「…くっ〜〜~!!さっきから矢継ぎ早にっ」
クソガキがっ!と怒鳴りたくなるのを堪えながらも、彼女は息を吐いた。
「一応はあるわよ。停止ボタンくらい押すますう。説明書を読まないと専門的な操作はできないけど…」
「ええっ!大丈夫ぅ?それ〜」
「いいのっ!あたしなんてね、使い捨ての派遣社員なんだから!大惨事になっても助けなんて望んでませーんだ!」
むつれてマニキュアを乾かした。
「そっかァ…あ、これ。地球で流行ってる飴ちゃん。中から美味しいのが出てくるの」
「マジ!ありがとう!」
見た事のない銘柄のkawaiiキャンディをもらい目を輝かせる。常に味のないゼリーを食べている身からしたら毒のような品物であった。
「じゃ、お仕事お疲れ様ー。パンフレットもらってくねー」
「どうぞどうぞー」
キャンディにぬか喜びしていたトーローテレイン・フープは失念していた。『無猟の地』という施設にパンフレットはない。
(んっ?何かおかしー気がするけど、ま、いっか♪)
くすみカラー好きです。




