かくしがみ の ごじつだん
隠し神編の後日談みたいな話です。
厄介な日だな、と至愚はため息をかみ殺す。
後光が差している。黄金色の亜空間では美しくたなびく雲さえ作り物が見え透いていた。
「ゃぁ、稀代の禍根術士〜」
白髪に近しい色素の薄い茶色びた長髪がなびく。たおやかな表情の奥にドロドロとした負が渦巻いていている。
神聖さを放っているのに、邪悪さが隠しきれていない──『神』を超越する存在。
「多多邪の宮。久しぶりだね、いや、いつぶりかな?」
「さあ?わえに時間なんてないもの」
燕尾服を翻し、さらに近づいてくる。適わないのを至愚は存じていた。だからせめて平然と立ち向かい、強がってみせた。
「徒魚。パーラムを返して?ね?ね?」
「返す?多多邪の宮。貴方は個人を所有物だとでも思ってるのかい」
「そうさ!わえは誓ったのよ!パーラムを幸せにしてあげる、とね」
「…私はその考えは好まないが…」
「別にいいよ。この世にはたくさんの考え方があるんだもの。で。パーラムは返してくれる?」
人面獣は首を横に振る。
「私はパーラムを所有していない。彼女が帰りたいと思ったら、きっと帰るのだろう」
「なぁにそれ?ウッザ──まー、いいやー。時間はたっぷりあるから待つよ!わえは優しいからねええ」
白檀の香りを振り撒きながら彼は消え去った。内心無事で済むと思っていなかったが…。強ばり逆だった毛並みを寝かせると、至愚はのそのそと歩きはじめる。
脅されたのは初めてじゃない。だがあそこまで直接的な牽制は今回だけだ。
「多多邪の宮のヤツ、目ざといわー。きんも」
表に現れたパーラムがシッシッと残り香を払う。
「ある意味羨ましいよ。どでかい人脈があるってのは」
「ハア?皮肉かよ。まーいいけど。なぁ、徒魚♡今日はなんの菓子をくれるの?それとも出血大サービスで人黄くれるの?」
舌なめずりをする様子に内心ため息がでるが、『人畜無害』に成り果てた今、彼女の態度は正しいと思える。パビャ子程では無いが腹が減るのだろう。
(パビャ子はコイツの成れの果ての果てみたいなもんだし)
「ハア…毎日毎日、精気をねだるなんてサキュバスみたいじゃないか…」
(あたしが想像していたパーラムではないぞ…)
「サキュバス?アタシはそこまでのべつまくなし食うゲテモン好きじゃない。信頼して言ってるんだけどお?」
背中に頬ずりされて気味が悪い。自分自身を人黄のストックだと認識しているのか?
「ラフがカステラを買ってくるそうだからそれをもらいな」
「つれなっ。それともサキュバスよろしく交尾でもしたい?いいぜ。こちらは準備満タンだ…」
「お前──」
項が逆立ち、振り返ると妖しい──ギラギラした目付きをした茶髪オンナがいた。捕食対象を見据えるソレで熱い息を当ててくる。
「好きにすると良いと言ったろ?アタシを使って欲求不満を解消してもいい。サキュバスや妖狐なんて大それたモンじゃあねえし、生憎今は異能もないただのオンナだけどね」
ご安心を。とのたまうパーラムに、至愚は恐怖を感じた。
「あ?!?熱でもあるのかい??」
「つれねーな。せっかく誘ってるのに。いいや!今日はナシ!カステラ食べる」
スッパリと消えたヤツに肝を冷やされたまま、意図が分からずゾワゾワと総毛立つ。こちらは女性を性的対象にする気は無い。元より巫者として生娘のまま、道を外しここまで来てしまったのだ。
あれは何だ?からかう範疇を超えている。
「アイツ…どういう教育されてきたんだ…」
ガールズラブ要素がやっと出てきたような?気がします。
いや、この人たちはガールズなんでしょうか…。




