じぶんが なんなのか
「私たち、目が金色になったりするんだなぁ…」
ミス(Miss)は手鏡を見ながらため息をついた。
焦げ茶の角膜は日本人に多いアジア系の、ごく普通のものである。金色の瞳は現実で見た事がない。
生まれついた時はもう少し黒色に近かった気がするが、加齢に伴うものだろうか。
(南闇さん、お腹が空くなんて。そんなに疲れていたのかな。私のせいだったりして)
しょんぼりして手鏡をポケットへしまう。
直接的に出ていけとは言われないが、まだ居座っているのは失礼だろうか。自分も頼りっぱなしではなく、家を借りるなり働くなりした方がいいのでは。
「どうかしました?」
「あ、いえ、わたし、早く自立して南闇さんに迷惑をかけないようにしたくてっ」
バットタイミングで部屋に入ってきた彼は常日頃の笑顔のまま、少し考え込んだ。
「僕は世話をしなければならない義務があるのです。貴方を道に引きずりこんだ。それを償わなければならない」
「いや、でもこの前」
「あれは変な輩の食べ物を疑問を抱かずに口にしたからです」
(ええ…っ)
「それに、貴方には見込みがある。そう多多邪の宮なんていう人が言っていましたよ」
「南闇さんもあの人に会ったんですか!」
驚いてあんぐりしたが、あちらは気にしていない。
「勝手に。まあ、僕たちからしたらあの人はお偉いさんなんでしょう」
(お偉いさん…確かに。雰囲気がそれっぽいし…)
自らの祖が何たるか、などを彼は解いてきた。南闇からは自分たちが何者かなどは聞かされていない。
生態系を存じているかは多多邪の宮くらいなのだろうか。
「ああいう人たちに深く関わるかは貴方の自由です。それを自立というのかもしれませんが」
「南闇さんは知りたくはないんですか?自分たちが何なのか」
「…知った所で何か特になるものがありますか?我々は人を食い、人でない。それ以上でもそれ以下でもない」
「まあ…」
反論もなく、頷くしか無かった。この世には人でない部類がいるのは確実であり、それ意外はさして変わりない。社会があり天気や季節がある。
「でも少し安心しました。ありがとうございます」
「いえ、何もしていませんから」
それだけ言うと、彼は自らの日課である骨磨きにとりかかった。
(南闇さんの言う事も正しい。けれども少しだけ、知りたい。自分が何になったのか)




