かくしがみ と かんちがい おわり
隠し神編は完結しました。ありがとうございました。
幼い子供に毒牙をかけた多多邪の宮、得体が知れないが良い印象はない。だがラファティ・アスケラも幼子の自分へミハル・ミザーンが手を差し出してきたた。
それは一緒だ。だから特殊ではない。
ありふれた、ありきたりで残酷な子供の末路だ。
「あの気色悪い物体が、パーラムさんや至愚さんが言う『大戸或女神』ですか?」
「ああ、私が見たのはどうやらもぬけの殻、あるいは母体の死体だったようだ」
「はあ…」
「ああいう類いの輩がいるのは知っていたが、まさか、パーラムに宿っているとは思わなんだ」
至愚は復讐心に燃え伝書鳩時代。『大戸或女神』が鎮守として祀られていた土地の歴史を調べた。
かの大戸或女神が記載され始めたのは中世からで、以前は別の神が祀られていた。それがいつの間にかあの神にすげかわっていたのだ。
パーラムが出会ったのは囮の部分であり、村では既にかの大戸或女神として祀られていた。それも大戸或女神と解釈したのも村の人間であり、本人は何も語っていない。
囮だからだ。
境内は御神木で鬱蒼としており、昼間でも暗い。また神隠しにあう者も多かったと伝わっていたという。
「大雑把な分類としては隠し神という枠に入るだろうね」
「隠し神?」
「そうさ。神隠しが有名で、人や動物を何らかの餌で誘い込み食らう。アレは隠し神の中でも随分タチが悪い。前の神を食って尚、そこにすげ代わり存在していた」
「前の神さま食っちゃったんすか?!」
頷くと、錆びた小刀を手に取る。
「それがこの小刀。ようく見たら違う神の名が刻まれている。宇迦之御魂神。それが前の神だ」
「じゃあ…」
パーラムは勘違いし、忘れ形見として数百年持っていたのだろう。
「人畜無害な囮で獲物を獲得し、次の世代を残すための大きな獲物さえ呼び寄せる。隠し神の狙いは膨大な力を持つ、宿主となる存在。それがアイツだった」
囮を上手く使いパーラムを魅了し、つけ入り子を産み落とした。
「おぞましいよ。数百年、アイツが不審な動きをしていた理由も分かる。ハリガネムシのように操られ自らの贄と隠し神の空間に餌を迷い込ませる。パーラムにそんな生態はない。隠し神と同じように、ヤツは無意識に人間を食っていた訳だ」
ラファティはゾッとして、吐き出された肉塊を思い出す。あれが体内にいたらおかしくなりそうだ。
「自我が崩壊しそうになったら宿主を食う為に、アレは自ら出てきた」
「だ、大丈夫なんすか、あの人」
「さあ。乎代子とパビャ子が普通な様子を見ると無事だったんじゃないかな?」
「看守〜〜お菓子くれよ。さっき乎代子にお菓子あげてたじゃないか?アタシには」
どういう理屈で形作られたか謎めいた『豚箱』の檻の中でパーラムがニヤニヤしてこちらを見ている。
「いやぁ、パーラムさん。人間のご飯食べるんですか」
「パビャ子と違って人らしい味覚はあるさ。あれ、美味そうな菓子だったじゃん」
「乎代子を介して食べてください…」
「無理無理。アタシが食べたいの〜♡」
おちょくっているのか、本気なのか。彼女は寝転がりながらジーッとポケットを見ている。
(隠し場所を把握されてる)
「至愚さんに怒られるんで」
「あのさぁ。床暖房ちゃんとしてくんない?寒いんですけどぉ」
「あー…」
ラファティ・アスケラは世話係の苦労がまた一つ増えたのを自覚し、胃が痛くなった。




