かくしがみ と かんちがい その3
隠し神編の続きになります。
「囲い罠?バカにすんなよ。『アレ』がそんな機転の効く事ができるとでも?」
パーラム・イターはトンチンカンな発想にイラつきを隠さず、爪をガリガリと頬に突き立てた。
「だって、ここ、神域にしたって負の存在が多すぎじゃないすか。それに今の年代の遺物もあって!」
「ああ?!アタシの力だって作用してるだろうさ」
「パーラム・イターさんはもう数十年この世界から出られてないじゃないっすか!」
頭に血が登りそうになったが、年少の動揺に腹を立てても仕方がない。フーッと息を吐いて彼女は牙を晒して笑ってみせる。
「ああ、そうとも!ずーっと檻の中だ!おめぇらのせいでなぁーっ!退屈で退屈で仕方ねえ!!この神域に現世と繋がりがあるんならさっさと出てっ徒魚の喉柄をきっさいてるだろうがよ!」
「じゃあ、坊や」
「お前もこの囲い罠の栄光ある食糧の一員って訳だ!」
大笑いをするや否や震える青年の胸ぐらを掴み、無理やり立たせる。
「どのくらい根性があるのか見物だなァ?」
「た、助けて…俺は好きでここにっ…」
「アタシもそうだよ」
「離してください。…を、…乎代子やパビャ子を彼岸へ見送るまでは諦めたくない」
「へええ。意外と肝がすわってんじゃん?でもさぁ。アッチ側にはなあんにもありゃしないよ。なぁーんにも!少なくともアンタが思っているような天国はね!」
「ぎゃっ」
乱雑に花畑へ突き放すなり、パーラムは辛抱たまらんと自分の巣穴へ戻ろうとした。
「至愚さんに助けを求めましょう!」
「はあ?」
「貴方が想っているヒトはあそこにいるんです。あれは無力な神じゃない!凶悪な化け物だ」
空を指さし、彼は必死に引き留めようとしてくる。が、いくら濁った奇妙な夜空には先程の鱗片すらなかった。
「──仲良くしていた貴方ですら食う気でいるんですよ?!」
「…アタシに説教たれるなんざ、頭が高けえなァ。クソガキ。この世の者でない部類はな──いいや、この星に住まわされてるヤツらは皆、食うか食われるか、で設定されてんだよ」
「…知っています。そんなの」
睨まれて、パーラムは片眉をあげた。意外と骨のある輩ではないか。
少しだけ言いぶんに耳を傾けてやろう。
「問題なのは彼岸を司る程の高次の存在…パーラムさんにもアレが見えていない事です。そうして高度な技術を駆使する至愚さんですらパーラムさんの神域だと誤認して封じ込めている…けど、さっきので分かったんです。ここは外に通じている」
「…なぜなら?」
「先ほど、笑い声が聞こえた際に何かが降ってきたように見えました」
思えば地響きの如し哄笑であった。実際に物が落ちているとは分からなかったが…。
「見に行ってみようじゃないか」
「ええっ?!」




