かくしがみ と かんちがい その2
隠し神編の続きになります。
『降ってわいた』ラファティ・アスケラによれば、お香が焚きしめられた部屋に迷い込み──気がつけばここにいたらしい。
至愚がまたこちらへコンタクトしたいがために、特殊な香を使ったのだろう。なんとも浅ましい。
(あきらめの悪いヤツだわぁ〜)
パーラムは胸の内で嘲笑うも、目の前の青年は怯えたままだ。たまに森から響く絶叫に挙動不審になっている。
「こ、この空間、何なんすか?!すげー不気味なんですけど!!」
「アタシも知らないね。他人の神域だから」
「えっ!」
「聞こえなかった?他人の神域を使い回ししていたから、んー、まあー、無事に帰れるか分からねえな」
かつて仲良くしていたこの世の者でない部類の『神域』。定位置から離れず、滅多に散策しないためにこのような場所すら知らなかった。
どこかに恐れがあったのかもしれぬ。あのひとがいたら、自身は平生でいられるだろうか、と。
「勘弁してください…ああ、至愚さんに怒られる…」
「シャキッとしろよ。グズ」
「ヒイッ」
情けなく言い訳しようとする偽天使を叱咤すると、面白いように怖がった。サディスティックな気持ちがもたげ、ニヤニヤする。
「グズグズグズ」
「いじめないでくださいよ!」
「なぁー、お前さあ、あんなオンナとつるんでて何が楽しいの?」
確か徒魚はのちに天使代理人協会になっていた。そこで出会ったとしてもなんと人脈のないセンスを持っている。
「え?!あ、えー、俺はラファエル枠の後任なんすよ…それに、なったのもつい最近だし。知り合ったのも至愚さんも堕天した後で、まあ、成り行きで…」
「ふぅーん」
「ミハル先輩は忙しくて何も教えてくれないし、同期も冷たいし…それに俺、こう見えてもまだ未成年なんで…幼い頃に拾われた身なんです」
はあ、と疲れ果て、彼は肩を落とした。
「へえ、アタシと一緒じゃん」
「えっ」
「今でいう扶南国って所から運悪くこの国に来てしまってね。そんでひでぇ目にあっていたら、多多邪の宮に言いくるめられたんだ」
「は、はあ…知りませんでした」
ボソボソと返答しつつも彼は白い彼岸花をクルクルさせた。
「上手い話には裏があるんだよ。青年」
「あ、あー、痛感しています」
「ハハハ!なら徒魚に一発かまして逃げるこったな!」
笑い飛ばすも、どこからかすすり泣く音がする。森の奥から幾人もの視線がして舌打ちした。
「どいつもこいつもナヨナヨしやがって!面と向かってかかっこいや!」
「ヒイッ」
はっぱを切ると誰かが笑いだした。轟音を立て、カセットテープをま伸びさせたような笑いに、亡霊めいたヤツらもワラワラと逃げていく。
この世界は泣いているヤツしかいなかった。生贄も苦しみボソボソと許しを乞うていた。
誰も笑わない森の中で、唯一例外の存在。
「…おい、いるのか?」
友と慕っていた『神』が。
「いるならなんで今まで隠れてたんだよ?そんなにアタシが憎いか?アタシがあんな事をしたからか?!」
なあ。
語りかけても、友は何も言わない。
「…ここ、あの笑ってるヤツの、神域が囲い罠だったりしないですよね?」
「は?」
「さ、さっき笑ってる、訳分からんヤツの…顔が、…天井?に顔があったんですよお…」
「は?あの子の囲い罠だって?」




