へんなてんし
ジゼルさん、初登場。
咋噬 南闇はホームセンターで買い付けたシャベルで、いつも通り夜露に濡れた地面へ死体を丁寧に埋め、白骨化するのを待つ。
かの九相図を昔、いつだか目にした事がある。インターネットだか書籍だか。あれを地中へ沈め自然の作用でやってもらう。
血肉は微生物や虫たちにやればいい。必要なのは骨だけなのだ。そうして関東ローム層に溶かされる前に掘り出せばご馳走の出来上がりだ。
「ふう」
息を吐いて、綺麗に埋まったのを確認して立ち去ろうとした。
人の気配がして咄嗟にシャベルを構え──鈍い音を立て、柄の部分が半分に割れた。まるで鋭利な刃先に切断されたかのように。
──人ではない。
「仕方ない」
リクルートスーツのポケットから可愛らしいコンパクトミラーを取り出すと開き、マジカルシャベルを召喚する。
風をきり割く音に素早い対応でシャベルのマジカル鉄で防いだ。相手の姿を探り、地面にファンシーな武器を突き立てる。
ザクリ、と土に突き刺さるや、僅かなヒビから眩い光が漏れ出てた。
「わ!光った!」
どこからかウィスパーボイスがして、トスリと白いスーツを着飾った幼い子供が現れる。
「ごめんねー。そこまで力があるなんて思っていなくて」
美しい短髪の薄めのブロンドヘアー。垂れ気味の眉と双眸──黒々とした瞳。その風貌を、相手には見覚えがあった。
「偽天使、ですか…なぜ僕を標的に?」
「そうだよ、こんばんは。立場上たまに『お死事』しなきゃいけなくて。貴方を殺そうとしてしまったの」
「はあ。偽天使にしては奇っ怪な格好をしていますね」
南闇の言うとおり、幼稚園児くらいの子供から長い尾に似た羽根まみれのモノにスパナのような、鋭い刃先がついている。悪魔でもそんな尾は珍しいだろう。
「ああ、これ?わたし、ぶきっちょだから」
バツが悪そうに笑うと、しゃがみ込んだ。
「これから通報するんだけど、いいかな?」
死体がある場所を指さして、意地悪な笑みを浮かべた。
「やめてください。食糧が減ります」
「ならわたしに消される?」
「…困りましたね。何をしたら許されましょうか」
「そのステッキ素敵。たまにお仕事手伝ってくれる??」
マジカルシャベルをガン見され、彼は少なからず困惑した。
「まあ…ルールを破らない程度なら」
「よっしゃー。じゃあ、お礼に貴方の好きな物あげる!」
フンス!と自慢げに宣言すると
「お゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ベチャベチャーーー!!!」
盛大に謎の吐瀉物をぶちまけた。その有様にこちらももらいゲボをしそうになり、慌てて口を抑えた。
「あー、吐いた」
「こ、これが、お礼だと?貴方、正気ですか?」
「めちゃ美味しいから、好きな部品だけ持っていくといいよ」
くったいのないスマイルで言われ、渋々肉塊から骨を何本か拝借した。形からしたら人のようだ。
「わたしが厳選した素晴らしい個体の骨だよ。大切に食べてね」
「あ、はい」
「じゃ、よろしく!わたしはジゼル!貴方の名前は?」
握手を求められ、彼は笑顔のまま躊躇う。
「…南闇と申します」
魔法少女なやみくん!




