けいやく せいりつ
サリエリちゃんシリーズになります。
「契約成立でえす!サリエリサマぁ!貴方に極上のサービスをご提供いたします!」
熱い握手を交わされ、ウンザリしつつも彼女は尾先ヶ 間蔵を眺めた。
自身より十歳くらいしか違わない若々しい女性。純粋な瞳。血色のいい肌。不自然なリクルートスーツ姿でなければ年頃の乙女だと勘違いするだろう。
タチが悪い。
「極上のサービスか…ふざけてる」
「まずは現在のギャビー・リッターさんについて、ご説明いたしましょう!」
指を芝居がかった仕草で鳴らすと、眼前に近未来的なプロジェクター画像が現れた。
「彼女は地球の真上にある宇宙から来た外来種。本名はリマブィテアスンアナ・ダッチバーン・ディスピピアンス。能力は対象物を失踪させる事です」
白いスーツではなく、質素な中世ヨーロッパの衣服を着た『ギャビー・リッター』が映る。
「宇宙人なんているんだ。知らなかったよ」
「この世界は何でもありなんです♪で、ダッチバーンさんはファンシープリティランドの従業員をしています」
ファンシープリティランド。
宇宙にあるとは思えぬ名前だった。
「…そ…のファンシープリティランドって何だい?女児向けの公園…?」
「ファンシープリティランドはファンシープリティランドです。まあ、地球上の物に例えるのならば原子力発電所です。宇宙の壮大なエネルギーを作り上げる力強い施設になります。あるのは無明のカルーセルという原子力発電のタービン、といえばいいでしょうか…そんなものがあるだけです!」
遊園地に似た施設には確かに巨大なカルーセルしか無かった。
「そんな重要な施設の作業員がこっちにいて大丈夫なのかね」
「はい!化学反応を起こす材料を調達しなければなりませんから」
原子力発電ならそのまま原子。しかしファンシープリティランドというのだから…。
「まさか…、女児が材料なのか…?」
「いやいやぁ!そんなマザーグースの歌みたいな訳にゃあいきませんよ!!むしろサリエリさんのオツムが砂糖でできてるんですかあ?生命体そのものですって」
「…まどろっこしいな?」
マザーグースの有名な詩『Whats the Little Boy Made of?』。女の子は砂糖とスパイスと…素敵なものでできている。
そんなような皮肉めいた発電施設があるなんて。
誰が、なぜ、そんな命名をしたのだろう?
(そこをツッコんだらオシマイだよな…いや、気になる…)
「地球という神秘の塊っ!その副産物である生命を材料に、発電するのがあの施設なんでえす!他に発電所はありますがぁ…ダッチバーンさんが働いているのは地球専門の原子力発電所というわけです!」
説明し終わり、彼女は地球のホログラムを眺めた。
「バカバカしいでしょ?あまつさえ宇宙でそんな事をするなんて!全くもって!しかぁし!マクラちゃんは地球人なので深く考えるのをやめます!」
「えっと、遠回しに深入りするなと忠告しているのか??」
「へへ…」
(…肯定の笑い?そんなにヤバい案件なのか…)
尾先ヶ 間蔵はレジュメを渡してくれた。いつ作成したのだろう。
まめな対応に感心しながらも、ダッチバーンという輩はなぜ『天使代理人協会』を潜伏先に定めたのだろう?と疑問がわいてきた。
「コーヒーでも飲みませんか!」




