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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜 ☆litとInsane☆  作者: 犬冠 雲映子
キリトリセン(サリエリちゃんの開かず扉の鍵、隠し神編、他)
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しぐさん さまよい

 至愚は夜の帳に浮かび上がるガタンゴトンと走る電車の明かりを眺めていた。上がりのせいか人がまばらに乗っているが見てとれる。

 ベッドタウン一帯は下り列車ばかりが込み合っていた。

(未来から、厄災がやってくるんだろうか)

「うふっ。やってきますよ〜」

 頭上から場違いな声がして、気を害する。若々しく甘ったるい媚びた声。

 そのような喋り方は苦手である。

「先程、契約成立して希望を転移させましたから」

 童顔の女性。リクルートスーツ姿である事からしたら、パーラムと同族だ。

「有り得ないほどの希望を無理やり転移させるとねじ曲がってしまう時があるんですう」

「…あんたのせいだったのか」

「そうですかね?それは契約者さんのせいじゃ?マクラちゃんは──」

「あんたがそんな力を持っているから!」

「…。貴方だって、人殺しの呪法を持ってましたよね?神殺しの霊験も。同じじゃないですかあ?」

 無邪気な少女のような瞳で彼女は言う。この世に疑いがない年頃の乙女の如く。

「パーラム先輩も徒魚さんがいなければ、今頃マクラちゃんと一緒にいたんですよ?そうでしょぉ?」

 皆まで言うな。善良なはにかみがそう語っている。

「…それがあんたの異能か」

「まあ、そうともとれますねえ!立場が変われば見方も変わります。特別な力じゃないですよ〜」

 上品に微笑むと、リクルートスーツの女性は空中でクルリと回った。

「では、また機会がありましたら」

「…あるものか」

 睥睨するも、そこには誰もいない。あそこまで位の高い者は清楚凪 錯迷以外は目にした事が無い。

(あれ以上の力を持つヤツが出てきたら、偽天使もあたしも太刀打ちできないぞ…)

 清楚凪 錯迷を封じたのを機に、停滞していた流れが動き出してしまったのだろうか。

 この世の者でない部類には短い時間で見つかったものだ。彼女たちからしたらもっと体感時間は短いか?

(言動からしてそうでもなさそうだった。奴らの研究が足りない)

 至愚は足を折りたたみ、地面に身体を預けた。身を切るような寒さも硬い体毛のおかげで耐えられる。

 終電まで電車をながめるとしよう。


「ダンゴムシうめえ!!あっ、ナメクジ!!やったー!」

 日が明けて、人気のない道を歩いていると──不審な動きをする女を見かけた。

 パビャ子だ。

 至愚は必死に虫をつまんでは口に入れている茶髪オンナに、小石をぶつけた。痛くない程度で、石はコロリと転がった。

「パビャ子。そんなに腹が減ってるなら、奢ってやるよ」

「あ!至愚!珍しー」

「インフルエンザウイルスでカラスが大量死していたのを見てね。今ならたくさん食べられるよ」

「やったー」

 抱きつかれ、体がぐらついた。朝日を浴びて霜が煌めいている。久しぶりに日が昇る天の下にいる。

 悪くはないが、この世の者でない部類の時間ではない。

「人間はあたしがもらうけど」

「良いよ〜」

「…パビャ子。あんたは人間が食えなくてツライかい?」

 なるべく優しく問うた。するとパビャ子はニコリと無邪気に笑う。先程の女性とは(たが)うネジの取れた笑顔。

「全然。人間が食べられたら、他の物を食べられなくなっちゃうでしょ?」

 金属も毒もプラスチックも、土も虫も。

「あはは。パビャ子らしいなぁ」

 バカバカしい気持ちになり、至愚は公園へ歩き出した。

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小説家になろう 勝手にランキング

かなりランキングに向いている作品とは思えませんが、ぽちィーーー!!!としてくれるとマンモスうれピーーーー!!です。

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