ふしんな ちゃくしんないよう
──極上のサービスを提供するのが私たちの指名なのです──しかし。
──願いを叶えたら、貴方はずうっと私たちの祖の鎖に引きずり回されるのです。
「マクラちゃんは希望を叶えるお力を持っておりまぁす。ただし、その希望は誰かの物。誰かから借りるんです」
尾先ヶ 間蔵はニッコリと清らかな猫をかぶりながら、説明した。
「この娑婆では幸せは平等ではありません。その幸せのバランスをとるのがマクラちゃんの役割なのです」
「なるほど。いかにも悪魔らしい能力だな」
「だからぁ〜悪魔じゃないですう!偉大なる祖の眷属ですう」
「…はあ…」
口を尖らせる厄介者に、サリエリは脱力した。
「そもそもギャビーの遺体なんてどうやって見つけるんだ?僕たちはこの世の者でない部類じゃない。此岸に権現するための肉体だって人間と同じとは限らない」
「心配ご無用!マクラちゃんのお力で、必ずや見つけ出しましょう。知ってるんです。まだギャビーの遺体があるのを」
「…どうしてそこまで」
彼女は諦めずに提案してくるのだろう?
「我々の領分に未知なる勢力がいるんです。それは許せませんよ」
(そういう事か。安心した)
このリクルートスーツ集団の上位存在が人間に限りなく近い思考回路でつるんできたら、天地がひっくりかえるだろう。ただ目の端にゴミが見えて邪魔だから、そんな感覚で利益を提供したいのだ。
「名を消された者共もそういうのは嫌なんだな」
「むぅっ。なんですか、それ〜!…あ、とりあえず返答は急ぎません。重大な決断は即決してはならない、そうでしょ?決まりましたらマクラちゃんにお電話ください」
お辞儀をしつつ名刺を渡され、そこは営業マンらしいなと関心する。
「では、ハバナイスデー!」
国鉄と私鉄が交わる街に構えた六階建ての雑居ビル。そこが『天使代理人協会』の本拠地である。
表向きは当たり障りのない社名にしてはいる。怪しまれないよう、魔法で欺いてもいる。そのためイザコザは起きていない。
雑居ビルに戻ると、玄関口近くの蛍光灯が音を立て点滅していた。最近変えたばかりだというのに。
サリエリは視界が不確かな中、着信音がするのに気がついた。
無機質なアラーム。なぜだか不気味さを覚え、音源を探る。──事務所からだった。
デスクにスマホがポツンと残され、そこから着信音が流れている。最新のスマホ。誰のだろう。
──このデスクはギャビーのもの。
「もぉしも〜し!スマホ変えたんだってぇ〜!?いいなぁ!てか!何で連絡よこさないの?!もしかして避けてンの?!つまんないですケド!!」
スマホから大音量の女の声がして、サリエリは固まった。
「あー、えっと、誰だ?」
「えっ?!誰?!・リマブィテアスンアナ・ダッチバーン・ディスピピアンスじゃないの?!」
「りま…?いや、このスマホはギャビー・リッターの物だが」
「あ!ごめん、そっちではギャビー・リッターだよね。間違えちゃった〜てへぺろ☆」
やっちまったー、と相手は笑っている。冷や汗が止まらない。間蔵の言っていた通り、あのギャビーは偽物なのか?
「トーローテレイン・フープから伝言よろ。無明のカルーセルは故障修理中だから今は殺害しないでね〜じゃ!」
強引に通話を切られ、しばし唖然としていた。
無明のカルーセルとは何だ?
殺害とは?
(アレはスパイなのか?なら、ギャビーは)
「よう、サリエリ。あれ?それ、ギャビーのスマホ」
事務所にラファティが入ってきた。
「…君はギャビーが、本物に見える?」
「え!?あ、いや、あれはギャビーだろ?」
彼はたじろぎ、スマホを見た。
「誰かと電話してたのか?」
画面には着信履歴は残されておらず、あのパチパチと音を立てて点滅していた蛍光灯も直っている。
「ああ…そのはず」




