おさきまっくら もりのなか
サリエリちゃんシリーズ開始です。
のんびり?やっていきたいです。
サリエリはフッと暗い森に続く道に立ち尽くした。
原生林の高い木々が空をおおい尽くして、光が届かない。黒が奥行きにある。
ザワザワと心の水面下に違和感がある。自分自身にも大切な何かがあったのを、思い出せそうな気になる。
あの森に似て、果てしない底に大切なものを置いてきた。
「ギャビー…」
ふいに出た言葉に、疑問がわく。
この日差しも通さず暗い林とギャビー・リッターは関係ないはずだ。
(ギャビーは僕を避けている。当たり前だろう。皆、そうなのだから)
(けど、それがすごくイライラする)
「おはこんにちわ!」
頭上から底抜けに明るい挨拶がして、一気に気分が悪くなる。
リクルートスーツ姿の女性がこちらを『見下ろして』いる。
「尾先ヶ 間蔵でぇ〜〜す♪」
「悪魔め」
「えぇっ?マクラちゃんは悪魔じゃないですう。まあ…西洋人のエンジェルちゃまからしたら悪魔的に思えるかも知れませんが。私たちはっ!」
細目からわずかに色素の薄い茶色の瞳が覗き、その目つきが気に入らなかった。こちら側を心底見下している。
「何しに来た?僕に接触して消されたいのかい?」
「消すう?貴方が?私を?アハハッ!──世間知らずのお嬢ちゃんは言う事が違いますう」
くったいのない笑みを浮かべ、切り取られた森を見やる。
「死体が埋まってそうですねえ。こーいうくらぁい森の中って」
「埋まってても別に。僕には関係ない」
「本当に?知りたくないですかぁ?埋まっている秘密」
首を有り得ない角度に曲げ、彼女は提案してきた。
「ほら。秘密は──木を隠すなら森の中、なんですって」
なるほど。あの森は幻という訳だ。
尾先ヶ 間蔵が見せている幻想。この町付近にもうあのような鬱蒼とした森はない。全て伐採されマンションが建った。
知らない町になって、知らない人が住む。
自らも別人のように過ごしているかのような、不可思議なズレを以前から感じていた。
「貴方が大切にしていた木。見たいですよね?」
「命の取引したいのだね?お前らが好き好む、生命の源とやらを」
「はい、人黄は好きですよ!しかしサリエリさんに合わせて西洋文明に登場する悪魔らしく、極上のサービスを提供するのが私たちの指名なのです──しかし」
いたずらっぽくウインクすると、顔を近づけられた。
「願いを叶えたら、貴方はずうっと私たちの祖の鎖に引きずり回されるのです」
リクルートスーツ集団の創造主は人間や生き物の黄燕とやらがとても好きだと耳にした事がある。それさえ捧げれば祖は最上の喜びを与えていたという。
眷属である彼らは様々な願いや役割を担って、人々を死の淵や彼岸へ誘い、願いを叶え、または恨みを晴らし魂…諸説に言う三魂を『鎖』で縛り付け──従者を増やしていく。
脅威的な集団だった。
「名を消された敗者が、この天使代理人に契約を結びたがるなんぞ笑い事だな」
「どうぞ存分に楽しんでくださいまし♪私はそのためのエンターテイナーなのでえ!知りたいですか?ギャビー・リッターさんのご遺体の在処を」
その言葉にサリエリは渋い顔をし、ねめつけた。
「何を言っている?ギャビーは今も私と働いているじゃないか」
「節穴さん♡アレをどう見たらギャビー・リッターさんだと認識できるのですかぁ?」
半月切りの目を煌めかせて、彼女は蔑み笑う。
「その程度の精度で良く天使代理人協会などしていますねぇ。天使は人をよく見ないと…ねえ」
「ギャビーは」
オドオドする同僚と会話する度に蟠る不快感はこれだったのか?
「ギャビーさんのご遺体探しの旅に出ましょう?」
誘われてどうすべきか、分からなった。




