きおくそーしつの のう はゆめを みるか?
ラファティ・アスケラは場をまとめるため──調理がある程度できるので──二人に即席ラーメンをふるまった。仕事帰りの陰気臭い女性が栄養ドリンクで夕飯を済ませようとしたからだ。
「あったけえ…」
乎代子が五臓六腑にしみわたる、とありがたがる。湯気が寒々しい部屋でたゆたう。
「そのコンロ、どこから出したんですか?」
「ああ、魔法で」
ラファティは苦笑しながらも素直に答える。天使代理人協会の特権として魔法が使えるのだ。
「魔法?」
パビャ子は眉をひそめて召喚されたカセット焜炉を凝視し、ラーメンへ視線を移した。
「ぱ、パビャ子、ラーメン冷めちゃうよ」
「…」
ラーメンを食べ、彼女は目の前にある食べ物が本物と納得したようだ。
「味噌バターラーメン美味いだろ?」
「美味しい」
「わーっ。良かった〜」
「…至愚、なかなか来なくね?」
和気あいあいとしつつも解決してくれそうな人材が一向にやってこない。
「この際よお。本部に来いよ。暖房つきだし、ベッドもあるし。この部屋寒すぎだって」
「ああん?私の部屋がなんだって?」
「お風呂温かったー。入浴剤もいい匂いで、堕落しちゃうわ」
久しぶりの長風呂に、乎代子はホクホクだった。常に寒さに晒されている夜とは大違いである。
「パジャマもあるとか、マジサービス精神ヤバヤバでしょ」
サクメイの件もあり、都会から離れた廃墟からきちんとした雑居ビルに転居したようだった。天使代理人協会の寮としての狭いルームではあるが、だいぶ居心地はいい。
「…あ…」
ベッドに腰掛けて、ジッとしていたパビャ子と目が合い、気まずくなる。色素の薄い茶色の瞳をきちんと見るのは初めてかもしれない。あんなにも色が薄かったろうか。
目の輝きがないせいだろうか。
こちらを見てさらに彼女の表情筋が固くなる。お通夜モードのような有様に、なにかしてあげなければと焦りが生じた。
「蒸しタオルで頭拭いてあげようか?」
「うん」
「ラフにドライシャンプーとかあるか聞いてくる」
部屋に置かれた古めかしい電話を手にすると、ラファティへかけた。
本部はリノベーションしてあるために、鄙びた団地か社宅を思わせる。やはり彼もそこに住んでいるのだそうだ。
「コイツを綺麗にしなくてもいいんじゃね?まー、ベッド汚れんのは嫌だけどさ」
早速、ドライシャンプーとタオルを持ってきた偽天使がやってくる。
「いや、なんか可哀想じゃん」
「ふぅーん」
二人で髪を綺麗にしていくと、相当汚れていたのか、茶髪オンナの色素がさらに薄れた。白髪よりの茶色というべきか。
多多邪の宮の薄茶の白髪よりかは濃い。リクルートスーツ集団はそのような生態なのだろうか?
「今まで茶色かったのは泥ついてたんだね…パビャ子…」
「野良犬みたいな事言うなって」
櫛でボサボサヘアーをといていく。すると、ラファティが手を止めた。
「あ…」
「ん?」
「いや…イヨ子の髪の長さに似てるな、て」
「イヨ子?」
あの傲慢ちきなパーラム・イターを殺めたという、肝の座った女の子の名前。
「お前らやっぱり…同じ存在なんだな」
そんな言葉を面と向かって言われ、何と答えていいか分からない。対してパビャ子は借りてきた猫のように大人しくしているだけで、意思というのが感じられなかった。
そこうして至愚は結局現れず、明日に期待する事にする。乎代子は簡素とはいえ温かい毛布にくるまって、爆睡しようとしていた。
パビャ子も毛布をとりだし、寝ようとしている。
「あー、パビャ子は寝なくても大丈夫な身体してんのよ」
そう言われ本人は戸惑っているみたいだった。
「え、えっと、横になって目をつぶるだけでも休まるらしいし…」
「…横に来ていい?」
「え!?」
「二人で横になりたい」




