ふぁんになれなかったこども
パビャ子は気がつくと舞台上にいるかの如く、スポットライトを浴びた少女の近くに倒れていた。
「んあ??あれ?」
この世の者でない部類は睡眠を必要としないため、夢でないのは分かる。が、この場に来るまでの寸前の記憶がない。
空も風もない。ただののっぺりとした闇。作り物だ。
シクシクと泣いている少女。高校生くらいだろうか?
顔は伺えないが、パジャマを着ている。
「だいじょび?」
「パビャ子さんに会いたい…パビャ子さんに…」
掠れるような声で彼女は言う。
「パビャ子さんは目の前にいますよ〜」
「貴方はパビャ子さんじゃない」
「えーっ」
シクシクと嗚咽をもらして泣く。パビャ子さんに会いたい、と繰り返しては悲しみに暮れていた。
「そのパビャ子さんにどうやったら会える?」
「…貴方を、食ってしまえば」
少女が顔を上げた。そこには空白──いや、空洞があり、闇が広がった。
「え?」
我に返るとまた振り出しに戻っている。
「あ、あー。どーしよう」
スポットライトはどこから照らしているのか、この空間はどこまで続いているのか。やりたい放題試して見たが脱出できずにいた。
「ねえねえ。お嬢さん。お名前は?」
「イヨ子…」
さめざめと泣く少女はそれだけ口にした。
「イヨ子ぉ」
どこかで聞いた名前である。(う〜ん。何だっけ)
頭が悪いパビャ子には胸に引っかかりがあるだけで完全には思い出せなかった。
「私はパビャ子さんのファンなの」
「隣に居ていいのは私だけ」
「全てを捧げたんだもん」
「私がパビャ子さんと一緒にいて何が悪いの。アイツらは私を利用したかっただけ」
「パビャ子さんの事を一番知ってるんだから」
呪詛のように、イヨ子は延々と恨みつらみを吐き出している。
(う、あわあ…)
さすがにドン引きして無意味名 パビャ子はこの女から離れた方がいい、と確信した。
「じゃっ、また。イヨ子さん、何かあったらまたお話しよ〜」
「貴方の気持ちが誰から来てるか知ってるの。乎代子への気持ちは私のもの、借り物の気持ちで良く仲良くできるね」
「え?」
なぜこの少女は乎代子を存じている?それに借り物とは?
「貴方が、人を食べられないのはね。人である私だからだよ」
「人は人を食べられないんだよ」
「だけどね、貴方にいい事を教えてあげる」
理解できずに圧倒されっぱなしでいると、泣いていたはずの空洞女はユラリと立ち上がった。死体が無理やり動いているみたいであった。
「乎代子の血肉を食べちゃえばいいんだ。パビャ子さんは許してくれる。だって、私はパビャ子さんのファンだもんだって、私はパビャ子さんのファンだもんdddってt、私wパビャ子さささささノファンだもnn──」
「ちょっと、あー、わけわかめだなー」
顔面に広がっていた空洞がみるみる大きくなり、舞台上を壊していく。空洞の遠い先には金色の景色が広がっていた。
誰かがいる。光り輝く世界の中で、見慣れた人が佇んでいる。手を伸ばしてはいけないとは思っていた。
でも伸ばさずにいられなかった。
「乎代子!」
イヨ子ちゃんのラスボス感が日に日に増していきますね。
ワロてるます。




