さりえりちゃん
サリエリ・クリウーチは謎の、ウネウネした動きをしながら逃げようとしている茶髪オンナをガッシリと抑えていた。
「君は常日頃、問題を起こしすぎる。よって罰を与える!」
「罰う〜〜~?なに??カミサマ気取りぃ?」
わずかに嫌そうな表情をしたパビャ子を、子供は真面目に受け止める。
「天使代理人だ」
「てんしぃ〜〜?笑っちゃう」
ニタニタし始めた茶髪オンナに、光る首輪──ニンブスを巻き付けた。
「召されよ!」
「にゃー!邪魔!」
パビャ子は指で解こうとしたがうまくできず、ムスッとした。
「召されナインデスケドぉ」
「…ふうむ。変なヤツだね。まあ、狂犬の首輪にはなるか」
真冬の強風がビュウビュウと吹きすさぶ。寒さを感じないリクルートスーツ姿のオンナはさておき、サリエリは少し寒がった。
「喫茶店でも行きたいな」
「えっ!?ご飯奢ってくれんの?!」
サリエリ御用達の喫茶店では、もうCLOSEの看板が立っていた。しかしサリエリは鍵を持っている為に出入りが可能だ。真っ暗な店内の中でコーヒーカップとパビャ子が頼んだアイスクリームがテーブルに置かれていた。
「こんなに寒いのにアイスを食べるのか」
「アイスクリーム美味しいじゃん」
「食べた事ないんだ。実はコーヒーもない」
彼女にとって食事とは炭酸水とハンバーガーのみであった。他は美味いと感じない。
コーヒーも苦味しか拾わず苦手だ。冬の温かい飲み物といえばこれ、と昔、ラファティが缶コーヒーを持っていたのを思い出す。
だからホットコーヒーにした。それだけである。
「おいしーもんを食うとね。幸せになれるよ」
「幸せ」
「アナタはおいしーもん食べないの?」
「僕は人間の生まれでは無い。祖である者から産まれたんだ」
だから、人間の生態や気持ちは真似できても理解できない。
「ラファティ・アスケラの気持ちも、他のヤツらの心理を真の意味では理解できていない。根本的に事なるのだから」
「へー。パビャ子はパビャ子だから、産まれとか気にしてないなー」
あまり気にしていない茶髪オンナに、サリエリは無言になった。
「…。君は気にしないようにしているだけさ。ホントは感情があるはずだ…人の」
「ええー、そうかな?良く人としてどうなんですか?って言われるよ」
「言動のせいだろう」
アッハハ!と笑ってみせた馬鹿な女。
「別にさあ、どーでもいいよ。そういうの。今はアイスクリーム食べるから黙ろ」
「む…」
お行儀が悪い食べ方に胸焼けがするが、あちらはなんの気なしにパクパクと食べている。
「そんなに寂しいならぁ。友だちになってあげようか?」
「友だち…?」
「そう。人間たちが、友情って呼ぶ関係だよ」
その言葉を聞いてわずかに息苦しくなった。辛い記憶があるような──
「いらない!」
「ふぅーん。じゃー、いいや。まー、私も友だちなんていないけど」
跳ね除けられたのにパビャ子はニヤニヤしている。
それでいいのか。
(それでいい。だって僕らはこの世の者でない部類なんだ)
人間ではないのだ。
(しかしコイツには陰気臭い女がいたはず、あれは友だちじゃないのか?)
分からない。サリエリ・クリウーチには理解しえない事柄が多すぎた。
パビャ子はアイスクリームが好きなようです。
ラファティくんは自動販売機のあたたか〜いコーナーから缶コーヒーを選ぶ派。




