をみに
無意味名 パビャ子は草木も眠る丑三つ時に鉄パイプで手当り次第、民家のガラスを割っていた。
意味は無い。ただ鉄パイプを手に入れたからだ。
悲鳴があがる夜中の住宅地を駆けながら、パビャ子は遊んでいると警察が早速やってきた。
「ちえっ!サツがきやがった!」
鉄パイプを構え、こちらも走り出すと警察官たちはわずかに驚いたみたいだ。
「待ちたまえ」
少女の声がすると世界が微かに白み、パビャ子は白いスーツ姿の子供、サリエリ・クリウーチに捕獲されていた。
「年末だからと言ってハメを外しすぎないように」
「ちえー」
手際よく捕まえられたのが気に食わなかったのか、茶髪オンナは口を尖らせた。
「せーっかく楽しんでたのに邪魔するの?」
「君の『楽しむ』は人の楽しむと違う。死人が出たらどうする?」
「別に、私が楽しけりゃいいのーだ!」
はあ、と大げさなため息をつきジェスチャーをしてみせた。
「やはりコイツらとは馬が合わないな…」
「馬?どっかに馬の死骸でもある?!」
「それに馬鹿だときた」
「鹿」
拍手が周りから響き渡り、異変に気づく。窓ガラスを割られたはずの人々が笑顔でこちらを見て手を叩いている。
「何だ?」
「皆うれしくて手を叩いているんだよっ」
手の甲を合わせて叩いては、不自然な笑顔したまま二人を囲んでいる。警察官まで逮捕を放棄して喝采していた。
「これが君の異能か?」
「まさか!」
「くそっ!」
サリエリは身軽な動作で電柱に飛び乗り、屋根を忍者のように移動する。
「年末を祝ってるんだね!今年もお疲れ様でした!!って」
「正気か?!年末なんて、ただの区切りでしかないだろっ?!年が明けたらまた同じ日々が続くだけだ!!」
「そんなんじゃ人生楽しめないよ?囚われたままだね!」
「あーっ!その不気味な拍手を止めろ!」
裏拍手をされて困り果てる。年末を祝うというのに反対の仕草をしているのはなぜだろう。
サリエリ・クリウーチにはさっぱり分からない。理解したくもない。
年末年始は憂うつだ。理由はないけれど、彼女はそんな気持ちになった。
明るさと絶望的な予感を漂わせる年末に。




