たびじ
──南闇は最後の一行を指さした。
「誰が『食い殺された』と、書き足したのでしょうか?なかなかに面白いと思いませんか?」
まるで別人が書き足したかのような…幼稚な文字は明らかに別人のものであった。
「は、犯人とか?目撃者、かな…」
だとしても書き足す心理が分からない。
「まあ、旅をするとたくさんの厄介事に巻き込まれるのは当たり前です。この人もご気の毒に」
心にもない言葉を吐くと、彼は元にあった場所へ手記を置いた。自然に還るまではそっとしてあげた方がいいだろう。
「私たちも散々な目にあってませんか?」
「ええ。でも悪くない」
「えっ」
「旅をして、そこで終わっても僕にとっては都合がいい。あの女に追いつかれるよりは」
「はあ、意地っ張りですよ…。意気地無し」
「おや。言うようになりましたね?」
チャカナ、とこの世の者でない部類が鳴く。ワンワンではなくチャカナなのは仕様か。
犬に導かれて歩いていると、海岸近くに漁船が停めてある。その上で言い合いをしている初老の男性二人がいた。
「こんの〜〜!まだ譲らねえか!これは俺の船──うわ!?アンタらいつの間に?!」
「今しがたここに来ました。貴方たちはどうしてここに?」
何でも二人はかの港町から命からがら逃げてきて、逃亡後の船の取り合いをしていたのだという。
「アンタらも逃げてきたのか?良く無傷だな…」
「港?ああ、大変でした」
彼も陰湿なヤツだな、とミス(Miss)は内心、お馴染みの心境になる。もう港は安全だと真実を伝えればいいのに。
「あのよ…渡河島から連絡がとだえてだな。あんなんを対岸から見たら連絡よこさなくなるのは当たり前かもしれんがよ。金をやるから一緒に見に行ってくれまいか?町があんなんになっちまって、ジジイ2人じゃ対処できん」
「金なんて要りませんよ」
常日頃の笑みで南闇は要求を跳ね除ける。
「はあ?じゃあ、何が必要なんだ?」
「骨です」
「ああっ?!?オメエ頭大丈夫かっ?骨って」
「真剣ですよ」
「ま、まあ。いいや、渡河島の隣に小さな島があるからそこに住んでる親戚の久沢さんの安否確認に同行してほしいんだ」
漁船に乗っていたもう一人が提案してきた。
「再三言いますが僕たち、必要あります?」
「あるある。若者にこの荷物を運んで欲しくて。渡河島の若衆からの連絡がつかないんだよ。ったく、薄情だよな!怖気付きやがって!」
困った様子の漁師たちにミス(Miss)は嫌な予感を覚える。
「あー…あの、とっても言いにくいのですが…あちらでも事件が発生しているとか…ありませんか?」
「まさかあ!俺らの所だけだろう!目視じゃあ煙も、異常も見当たらねえ。大丈夫だ」
「なら、確かめてみませんか?僕たちもエキサイティングな光景を目撃して疲れているので。島で一休みしたいです」
(この人、絶対状況たのしんでるなぁ…)
白い目を向けるが彼はニコリ、と好青年なフリをしただけであった。
ひとまず閉店ガラガラになります。
ありがとうございました。




