なやみくんたちはみなとまちへ
この世の者でない部類たちが頼る──『拠り所』は多岐にわたるらしい。それはあの世とこの世が分け隔てられたから発展していったという。
そうでないと収まりきれない。
「ひゃー嬉しいッスわ!ミス(Miss)さん、良かったら文通しません?」
若いネズミがはしゃいだように言う。
「文通?!わ、私、交換ノートもした事ないですよっ?!」
「やってみたらどう?」
ヒトリ雨にも勧められ、戸惑いつつも了承した。
(あー…手紙の書き方なんてあまり知らないや…)
雨が土砂降りのまま、ぬかるむ足元に沢を作る。一向に止む気配がない。
「ここ数年、なんだか気の流れもおかしいですし、山も変に騒がしいンですよ」
「あれ、あれだよー!地殻変動かなぁー?」
「みんな、もはや投げやりですからねえ」
うい助はふとザブザブと音を立てて流れる小川を見下ろした。
「──ああ、まだあの車あるんだ。長老さんが言うには、人間がこういう日に事故を起こしたらしくてあのまま放置なンすよ。もー誰も山に来てないらしーンでずーっとあのままなんでしょうね」
車。ミス(Miss)には腐敗しきった鉄の塊が濁流に飲まれているようにしか見えなかった。
「ま、ずいぶん昔の話らしいですわ。人間って車を大切にするって聞いたんですがね、違うんすかね」
「…」
ヒトリ雨が冷たい顔をしてそれを観察していた。冷徹、冷酷とも分類できない色を含んでいる。
「じゃあ、お気をつけて!あ、これ、住所!」
うい助がこちらの手のひらに摩訶不思議なハンコを渡してきた。朱肉は要らないという。
紙に押せば、勝手に届く。魔法のようなハンコに驚いていたが、カラッとした笑顔に何も言えなくなる。
「どうかご無事で!」
「…。悪趣味な青春ごっこという訳ですか」
咋噬 南闇が皮肉を寄越してきた。彼は非常電話でタクシーを呼んだと言う。
「青春…私は人間じゃあないので、そんなのっ、似合いませんよ!」
「はは!バカにしてすいませんでした。ああいうの大嫌いなんですよ。吐き気がする。失望しました。この世の者でない部類が人間どものようなお遊びをするなんて」
「そこまで?!」
雨宿りのために利用したトンネルの灯りに安心している。暗いだけの山林をズンズンと進めるほどの心臓をもてない。
「君、お金とかどうするのー?」
「これまで遺体から奪ってきたお金がありますから、なんとか。オーバーしそうだったら、そこで降ろしてもらいます──またはドライバーを食糧にして、港まで走りますよ」
なんとも彼らしいプランだ。
天気が荒れているのは誤算だった。誰も天気予報を確認できる媒体を所持していないのも。
「タクシーかあ!楽しみ!」
「わ、私もあまり乗ってないので、楽しみです」
「たかがタクシーを?変な人たちですね」




