いんびょうさま の はシため
ある人見知りな少女は人気のない道をひいばあちゃんに連れられ、夏の祭りに行く。
港町の小高い山には航海を護る神、優しい女神、そうして得体の知れない畏怖を象徴する神が祀られている。
「来週は海から神さまがおいでなさる。絶対に外に出ちゃいけないからね」
ひいばあちゃんは静かに言う。祭りの一週間後には決まって皆で集まって夜が明けるまでどんちゃん騒ぎをする。
玄関の前に鍬や金物をありったけに置いて。
「ねえ、ひいばあちゃん。それはホントの神さまなの?」
「…。神さまは人と同じで悪い者といい者がいるんだよ。優しい女神さまも、違う人から見たら怖い悪魔に見える…そんなもの」
「へえ〜」
「お前は騙されやすいから、気をつけなさい。ひとには色んな側面がある」
よく分からなかったが、少女は後々、海の神と密教由来の神が祀られているのを知った。なぜどうして?それすら不明であった。
訶梨帝母。
その神さまがどのような、姿さえ結局見れずじまいだった。
ひいばあちゃんは誰にも厳しい人であり、何か深い闇を見据えている瞳をしていた。港町では浮いていた。
──倉見は首を噛みちぎられ、死んだ。
「よく黄昏においでなさりました。わたくしたちは印猫さまのハシタメ。今後お見知りおきを」
二人の子供が恭しい動作で現れ、お辞儀をする。和装ではスーツなのがミスマッチで悪夢だと直感する。
「この度は印猫さまのご眷属になる事、祝福いたします。そうして同志である槐角の無礼をお許しください」
片方の子供が謝罪をし、懐から綺麗な翡翠の首飾りを出した。
「霊威ある憑子である誓いとして、この首飾りをあげましょう」
「さあ、わたくしたちで印猫さまの無念を晴らしましょうぞ」
二人が有無を言わせずに首飾りを渡そうとしてくる。
「ま、待って──」
「ぎゃあああああああああっ!死体よ!!」
悲鳴で目が覚め、自分自身は野生動物に襲撃され、死んだはずだと焦った。
「だ、誰だ!こんな事をしたのは!」
上司の声がした。海風がうるさい。あの崖っぷちにいるのだと再認識する。
「るあああああーーーー、ま、ママーッ!いだいよおーーーーーだ、タタ、ガァないで」
横からウネウネと動く何かいるのに気づき、凍りつく。
「この子!い、生きてるぞ!」
「ヒイッ」
眼下にいるのは町役場の上司と町を見回りする老人会の女性だった。
「間涙さん──」
「うおっ!い、生きてたのか──!何があった?!」
間涙という男性は磔にされたこちらだけを解放した。確かに死んだと確信した。それに首には血の跡がしっかり残っている。
「よく分からなくて…野生動物に襲われた気がしたんですが…」
「…と、とにかく、町で大変な事が起きてるんだっ」
二人は顔面蒼白であった。




