おぼんには むしに たましい がやどる
昼下がり。
ムシャムシャとバッタを無心に食べていると、草原から声がした。
複数人の、囁きにも近しい声だった。
「あちら側にいけないようにした者が、我々を食べておる」
「ああ、恐ろしい恐ろしい」
「この地の未練さえ無下にするのか」
どうやら何人かの男性がコソコソと話し合っている。パビャ子はムッとすると河川敷を見渡した。
そこには暑い最中、ランナーやコートで運動をする子供たちだけ。この辺りは日が強くて釣り人もいない。
対岸に望めるスーパー堤防には散歩する人もいるが、あの気配ではないと分かっていた。
「もう!」
捕まえた虫をありったけ咀嚼する。腹が満たされるには草も食べなければならないかもしれない。
猛暑続きに生き物が不足している。パビャ子はお腹が空いたと嘆きながらも地道に虫を探すのだ。
「アレに食われたら来世もクソもないぞ」
「川の赤子もついには泣き止むだろう。恐ろしい恐ろしい」
「んも〜〜~っ!さっきからコソコソ誰なの?!」
振り返ると仲間首が4体、並んでこちらをジロジロと見ていた。落ち武者といった風貌の──今の時代ではない髪型をしている。
「わ!生首?あっ??」
腐敗した生首かと見間違えたらしい。バッタたちがワタワタとしているだけだった。
「やった〜〜~!ご飯だっ」
パビャ子は散り散りになったバッタたちを追いかけまし、日が暮れる。
「ああ、あそこは古戦場だよ。ほら、川って戦いに適してるだろ?まあ…そういう戦術は…俺も詳しい事は知らないけどよ」
ラファティ・アスケラが焼肉屋で何の気なしに答えた。
「川?ああ、あの…色々幽霊が出るっていう噂の川ね。パビャ子、バッタ食ったのにあまつさえ焼肉も食べるワケ?」
「良いじゃん!」
「うえっ、乎代子はバッタを食べ物にカウントするのか」
それぞれ焼肉を焼きながらも会話をする。
「お盆も明けたのにまだ居るんだな…」
ラファティがやや暗い気色で呟いた。
このご時世、お盆時期も過ぎ夏休みすら終わっている。あの世とこの世は遠ざかっていた。
「パビャ子はそのバッタ、食ったの?」
「うーん。逃がしちゃった」
「そっか」
「え?なんかあるの??どうしたの?」
「いや…まだソイツらはこの世にいるんだなって…」
「え〜〜~?」
訳が分からないと茶髪オンナは目をぱちくりさせる。
「幽霊の寿命って確か、何だっけ?数年前にネットで話題になってたんだけど忘れたわ」
「…寿命もクソもあるかよ。ははっ!つーか、この世に幽霊はいねえだろ」
本調子を取り戻した彼に二人は顔を見合わせる。だが気にした所で何も変わらない。
パビャ子はふと落ち武者たちがまだ川辺にいるのか、と不思議に思った。落ち武者というよりは彼らは死者の残した残留物かもしれない。
あの世、なんて、この世の者でない部類になっても囚われているのか。もうそこに居ないのに。
少しだけ哀れだ。