いいひと わるいひと
「ね、ね、ねえ〜〜~っ、ミス(Miss)ちゃんはどーやってあんなヤツと出会ったの??騙されたの?それとも諭されたの?」
港町へ向かう途中、休憩合間にヒトリ雨がそんな言葉を問いかけてきた。
──上京したものの、中小企業へ入社したが上手くいかず…終電で帰る手前、駅のホームで「死にたい」と思ってしまった。
それが彼と出会ってしまった過ちだ。
「じゃあ、当初、アレはミス(Miss)ちゃんを食べようとした訳かー。まあ、死にたがる人とか弱ってる人は食べやすいっちゃー食べやすいよね」
「でも不思議と、こんな風になって…自分でも今の境遇についていけてないです」
二人は整備すらされていない廃道の隅へ腰掛け、下で熊笹から垣間見える清流を眺めていた。
「それはね、あの男の過失だよ。ミス(Miss)ちゃんを食べようとして、同胞へ引きずり込んじゃうなんて。力の使い方なんも知らないの」
「は、はあ…」
「普通はね。アタシたちは上の、親の同胞に自分自身が何たるかを教えてもらうんだよ?けどアレは無知なままずっと今まで生きてきた。至愚の企みかもしれないけど」
「…至愚さんが?」
人面獣の至愚は南闇と長い付き合いらしい、とだけは存じている。彼が至愚から学んだ知識は豊富であるし、死体の処理の仕方も彼女に助言してもらったのだと。
…企むほど彼女が悪い人柄には思えなかった。
「至愚はね、悪いヤツなんだ。イイヤツのフリをして周りを不幸にする。弟子だって犬死みたいに何人も死んで、ヤツに頼まれて呪われた人や一族も悲惨な目にあった。反対に頼んだ者も。術士からは役行者みたいに崇められてるけど、崇拝してる聖人によって死んじゃダメだよ…」
底抜けに明るい彼女に影がさした。
「…、そうですよね。普通はありがたいヒトだから崇拝されるんですよね…」
世には良い神や悪い神がいると、ぼんやり認識している。術士たちが崇拝する人面獣は両方をもちえた『何か』なのか。だが、役行者は人間だったはずである。
「それにさ!ミス(Miss)ちゃん、アレに寄り添い過ぎ!なんだっけ?えっとストックホルム症候群って言うんだよ!知ってる?!」
ズイッと詰め寄られて困惑した。
「え、え──」
「閉鎖的な環境下で加害者に被害者が好意を抱く間違った心理なんだって!ドクター駒田の本棚にあったの!ミス(Miss)ちゃん、ソレに近いんじゃない?」
確かにそうだろうか?好意を抱く、というよりは翻弄されているような…?
「やられっぱなしじゃダメ!ギャフンと言わせないとっ」
「優しいんですね」
「優しくないよっ!ちょっと〜〜もうちょっと人を斜めに見ないと!」
「あ、アハハ…」