じんおう
「どうあがいても化け物は化け物、人の仕草をしても無駄だぞ!滅べっ!」
術士が新たな印を組むや勝手にギリギリと首がしまった。恐怖と痛みが襲い、耐えられずに悲鳴をあげる。
(死にたくない!)
脳裏に父と母が浮かぶ。幸せだった──はずの、あの日々の記憶。団地の、
「…、…めて──やめて、アナタ!手を出さないでっ」
「言う事を聞かないヤツはこうしてやる!」
「やめっ…アナタ!珠希と同じようにっ、いや、嫌よ!この子もタマキみたいに死んじゃうわ!離してっ」
「俺はなあ、ガキは嫌いなんだよ!だから!ガキなんて!!」
(──え?)
父親が見た事のない形相で、こちらを見下ろし首に手をかけている。ハアハアと息を荒らげ、血走った眼球と目が合う。
これは?
(お父さん…?なんで、くび、しめてるの)
成人男性の握力は子供には強かった。ジタバタともがくも押さえつけられ、無意味だ。
(し、しにたくない、お父さん、なんで、なんで)
ミス(Miss)は混乱しながらも視界をさ迷わせた。光がある。煌めく光の玉。あの綺麗なモノに触れれば楽になれる──
「いやあああ!!!」
「──な、なんで──術が──ヒィッ!」
「ガアアア!!!」限界まで見開いた金色にギラついた眼光で、ミス(Miss)だったモノが瞬時に術士に飛びかかる。
人でない歯牙を剥き、手始めに首に食らいつくと──人黄なるモノにガツガツと必死にかぶりつく。血が噴水の如く飛散し、血腥い臭いを撒き散らした。
それに呼応するかの如くガタガタと本殿が揺れだし、地震のようにそこだけ暴れ出す。何を思ってか南闇がマジカルシャベルを構え、投擲し、勢い良く壁に突き立てた。
その場にそぐわぬファンシーな光が炸裂すると、本殿から巨大な馬が飛び出した。
馬の形をしてはいるものの体毛の代わりに鱗があり、背ビレや角がある。口は肉食獣に近しい。まるでそれは麒麟であった。
神々しい閃光が林を照らし、かの『疫鬼』は空へ駆けていく。
「わーっ、バイバイ!またねー!」
精一杯手を振ったヒトリ雨は、マジカルシャベルで頭をぶっ叩かれ気絶したミス(Miss)を眺めた。
「あちゃ〜〜、どうすんのこれ」