とけた、ふういん あかされた、ひとだま
「げーっ、アイツら来た〜〜~!しつこーい!!」
ヒトリ雨が鬱陶しそうに悪態をつく。
「じ、じゅ、術士?術士っt」
「至愚さんのような生業の者です」
「えっ!」
炎で明るくなった視界にワラワラと人影が見えた。あれが地元の人なのだろうか。
「ヒトリ雨さん。逃げます?」
「だねー。封印も解けたし、サッサととんずらしちゃお!」
駒田を背負い、逃げようとしたが──彼女は一定の距離で透明な壁にぶつかったように進めない。
「あー、なにこれ」
「──人黄食いの化け物どもめ!まとめて始末してやる!」
コテージ群の林から魔女と形容するのにぴったりな老婆が出てきた。白装束と大きな数珠。拝み屋を連想させる。
(術士って人間もやってるの?!い、今、人黄って…)
ミス(Miss)は獣面人の言葉を思い出した。発音は違えど意味は同じなのだろう。
「あ、あの!教えてください!人黄って何ですか?!」
「何だお前!知らないのか?人黄とは人に宿る魂──生きるための核の事だ」
「えっ…じゃあ、あの人魂は…」
自分自身が目視していた人魂は人黄なるものだったのか。
ミス(Miss)は冷や汗がたれ、狼狽えた。
「ともかくミス(Miss)さん。人黄の話は横に置いておいて、術士と交渉しましょう」
「は、はい」
冷静さを保つ南闇が松明を持ち、鋭い眼光を向ける術士へお辞儀をした。
「僕たちは貴方たちを脅かすつもりはありません。ヒトリ雨さんはこの方を故郷へ還すとおっしゃっています。貴方たちの地域から離れます」
「敵対者を前にしてやけに舐め腐った化け物だな。術士をなんだと思っている」
「術士には敬意を表しています。至愚さんを師にしていますから」
「な、何だと?あの至愚──徒魚さまを存じているのか?!」
どうやら至愚はかなり有名人のようだ。老婆は警戒心を露わにしたまま、ううむ、としばし考え口を開いた。
「ヒトリ雨のみなら解放してもよいが…その医者の亡骸は無理だ。かの医者はタブーを犯した。人道的なもののみならず、この土地を穢した」
「え〜っ。ドクター駒田は連れていけないのー??」
「来訪者は穢れを運ぶ。医者は化け物以上の存在をこの地にもたらしたのだ。忘れたのか?」
火事が酷くなり、森が明るみになる。奥に古び半壊しそうな本殿があるのがハッキリと伺えた。普通の神社でないのが、神道に疎いミス(Miss)にも理解できる。
正面にはしめ縄もなく、扉もない。あるのは気の木目に刻まれた巨大な不気味な文様だけだった。
「…他に方法はありませんかね?」
「お前らの遺体を楔にするのみだ!」
いきなり術士が手で印を組んだ途端、ピシリと金縛りにあう。
「やりやがったなーっ!インチキ術士ーっ」