ふうじる そくしんぶつ
コテージの近くに置かれた禍々しい塊を指さされ、二人はしばし停止した。
置かれた、というよりは木に『巻き付けられ』、有刺鉄線を食い込ませた『即身仏』にも見えた。服装は医者か、研究者か?
なぜならば白衣を着て──のか白装束ともとれるが──黒く変色した不自然な生々しい死蝋の遺体。視線を虚ろに投げ出したまま、口には赤い幣が詰め込まれていた。
「何ですかこれ??ひ、ヒトリ雨さんがっ??」
「違うよ〜〜~。ここの地元の人たちが、私を閉じ込めるためにやったの!ひどくなーい?」
「身をもって、魔を封じたのですね」
「そうなんじゃないかなー。アタシに皮膚の解体の仕方、教えてくれた優しいお医者さんだったのに」
皮膚を人体から剥がすには技術がいるという。彼女は大事に手入れされたメスを見せびらかすと、遺体を見やった。
「この人がくれたの!今までは包丁で割いてたから!」
「あ、あのお…地元の人たちは?お医者さんがいなくて大丈夫なんですか?」
「あー、何かたまに見回りにくるし、大丈夫なんじゃない?」
何とも他人事で明るい返事だった。やはり常識を失っている部類だったか。
(こんな事する地元の人たちも怖いし、この人もずっと楽しそうで怖い…)
ミス(Miss)はコテージ群を眺め、いつからこうなったのだろう?と現実逃避をする。手付かずの土地をリゾート地にしようとした名残りなのか、周りは不思議と民家すらない。
密集し暗鬱とした針葉樹林の奥に崩れかけた神社が見えた気がした。アレは幻覚なのか。
既に正気の沙汰ではない。
「でさぁ…二人に頼みたいんだ。この人を解放して、アタシにかけられた呪いを解いてほしーの」
「はあ…まあ、別にいいですが…」
「良いんですか?」
南闇が乗り気ではない、といった様子で答えた。
「食べ物を分けてもらえたからにはお礼をしなければなりません。我々の、この世の者でない部類のルールですから」
「は、はぁ…そうなんですか」
鶴の恩返しや、そういう類いの話は聞いた事があるが…。
「同胞には何もしないよ!あと、この人を親戚の家まで届けたいの」
「や、優しいんですね…?」
いきなり黒くなった親戚が知らない女性に担がれてきたら腰を抜かすに違いない。だが彼女なりの恩義があって、そこまでしたいのだ。
「遠い港町に、お医者さんの本家があるって言ってたから」
「港町。この先の道を行くとあるらしいですね」
「そうそう。君たちは目的地ないの?」
「宛もなくさまよっているので。ないですよ」
「じゃー、一緒に行こー!」
わーい、と彼女は喜んだ。不安しかないが頷くしかなかった。