てんよう と ただ
「多田 香純さんはそのような生活を…」
多田 香純は自然と初対面の人に常軌を逸した日常を話してしまった。疲れていたのか、それとも相手がこの世の者でない部類に違いないからか。
(相手も隠す気がないんだろうなぁ…)
こんなにも容姿端麗で完璧な人間はいない。不気味の谷現象さえ感じる。
「まあ、自分のせいなんで自業自得です。類は友を呼ぶ、って言うじゃないですか」
自分は最低な人間だ。だから後輩が化け物になり、毎日血抜きや死体の処理を手伝わされる。
最初から決まっていたのだと、香純はあきらめている。祖母への憎悪を抱いていた時から。いや、生まれた時から。
「…。多田さんは逃げだりしたくないんですか」
美麗なかんばせがこちらを覗き込んできた。
「分からないです」
「それは判断能力が弱っているだけです。多田さん、一旦、距離を置いてみましょう」
「え?」
「駆け落ちしませんか」
「ロマンス詐欺、ですか?」
美形すぎる顔面は機械的にかんでいるままだ。話しかけた時から自分自身は餌にされる運命だったのか。
(まぁ、いいや。もう…)
どんな残忍な殺め方をされても、どうでも良い気がした。生きる希望もない。この先が想像できない。
終わるならそれで良い。
「ロマンス詐欺なんて。騙すつもりもありませんし、貴方を人身売買にかけるつもりもない。ただ素質を見込んで、試しに遊んでみませんか?」
「えっ…」
この男は裏社会に足をつっこんでいるのでは?
「…これ以上、虚しい気持ちになりたくないです…」
「大丈夫。虚しい気持ちなんて吹き飛びますよ。手を取ってみませんか」
手を差し伸べられ、戸惑う。先程のおかしな服装をしたこの世の者でない部類と同じだ。
「…皆、酷い人たちですね」
手を取り、睨みつけた。すると彼は面白おかしいと素に近い笑みを浮かべる。
「酷い人は貴方もですよ」