ひふがない
「あ、が、が、だ、だずげてぐれえ〜〜」
夕暮れ時。ミス(Miss)は荒れた道を黙々と歩いていた。
背丈ほどある草木の合間からおぞましい声がして、ビクッと後退りした。いきなり瀕死の人間が意味をなさない道へ飛び出してきたらだ。
「ぎゃあああ!化け物ですか?!?」
「きゅ、救急車ぁ、だ、だ、ァ…」
人間らしき物体には皮膚がなかった。綺麗に皮膚だけを剥がされ、そのまま放置されたかのような──
「追い剥ぎにあったのでしょう」
「ええ?!」
ガン!とシャベルで皮膚を喪失した人間を殴ると、ジッと眺めた。息絶えたようだ。
「ちょっ、ええ?!南闇さん、何してるんですか?」
「晩ご飯にしようと思いました」
「…はあ」
あっけらかんとした様子に、思考停止するしかない。最近はミス(Miss)が火葬してやり、骨にしてやるのがお決まりになってきた。
彼からしたら餌を埋めて骨を手に入れるよりお手軽なのだろう。
「しかしどっから来たんですかねえ。誰に先に食われたようですが」
「化け物が他にも?」
ここの所この世の者でない部類たちに脅かされてばかりで、人がなし得ない所業を目撃すれば冷や汗が滲む。目の前の何でもない事象だと肝が据わった青年とは違うのだ。
「近くにいるはずですよ。生きていたのですし」
「ああ〜〜逃げたい」
「夜ご飯を見逃すんですか?」
「ううっ」
背に腹はかえられぬ、とミス(Miss)が遺体を運ぼうとした途端、ガサガサと何かが再びやってきた。
「あらー?アンタら同胞じゃん」
リクルートスーツを来た人懐っこそうな雰囲気の女性が飛び出してきた。
「ひい!」
「怖がんないでよ!他のヤツらと同じにしないで〜」
「ああ、この人は最近、同胞の方に狙われまして。トラウマになっているんですよ」
「そっかー。多分ー、印猫さまの門下だろうね。見境なさすぎ」
あはは、とヘラヘラする年齢不詳の女性は怪しさ満点だが、あの少女より幾らかまともに見えた。
(印猫さま…?)
多多邪の宮なら耳にしてはいるが、印猫なる人物は存じていない。それにこのリクルートスーツを着た化け物たちの規模を知らない。
ミス(Miss)は不安感にたじろいだ。
「新入り争奪戦あるあるだよ。君たちは印猫さまの手下たちの居場所を知っているの?」
(なにそれ。新入り争奪戦?大学のサークル勧誘みたいな??分からないけど…)
「いいえ。僕もあまり同胞と出会って来なかったので、何も知らないのです。至愚さんから色々聞かされましたが」
「へえー、至愚を知っているんだ?じゃー、アタシも下手に手出しはしないよ」
「ひい!」
「あははは!おもしろー。そういやさ。このひと、食べるの?なら奥にたくさんあるからもらっていって!皮膚しか要らないから!」
こっち、と草薮を指さし彼女は歩き出した。