しぐ と かこにおきた みらいの できごと
1作目の話の内容が含まれています。
「──運が悪かったな。可愛そうな村だ」
「じゃあ、偶然、幽霊列車が村を」
「そう。だが当時の人々は列車なんて見た事もない。馬しかいなかった時代だ」
運が悪かった。一体、運などと言うモノを定めたのは誰であろうか?
幽霊列車が村を破壊するなど空想めいた出来事があるだろうか。
明治時代に西洋から技術が輸入されてから電車が社会で当たり前の必需品になったのは、徒魚が数百年生きた後だった。
薄々気づいた。村を破壊したのは──パーラム・イターでは無いのだ、と。
その真相を認めたくはなかった。
もう認めるには長い年月が経ちすぎており、凝り固まった憎悪は解けなかった。呪詛の塊が胸に埋まり続ける。
徒魚は人が生活様式を変えていく中で何度か出生の地を訪れた。
破壊された村は更地になり、再び人が住み始め、今は全く別の風景が広がっている。それが常なのだ。
世界はそうであるのだ。
村がどのくらいの規模で、どんな地形かは想像できないが。集落が破壊されればば普通、自然災害だと納得する。
しかし村民は不可解な光景を目にして、理由を探してしまう。それは人間としての普通の反応だ。現代社会でも手に負えぬ災害が発生すれば誰かのせいだと、責める人もいる。その村の場合は祀られている神の仕業だと誤解してしまった。
「村で祭祀をしていた身分の至愚は自ら崇めていた神殺しをした。そして幽霊列車を観察している私を見つけ、コイツが真の犯人だったのかと馬鹿な勘違いをしたんだ」
女は鬼になるという。般若の面があるように、徒魚は清廉な神に仕えるから巫者から復讐鬼に変わった。
名が無かった訳ではない。徒魚なる名ではなく、美しい響きの名であったというのだけは覚えている。
自らがどんなに敬虔な巫者であっても未来は見通せない。まさか、あれが数百年後に開発された移動手段だったなんて。
夜更け過ぎ。静まり返った駅舎でとある物を発見した。
徒魚──至愚はふいに駅の壁に貼られたポスターを見た。
偶然。それは村を破壊した電車に酷似している。これからその電車は新たに線路を走り出すという。最新式の未来を担う車両。明るい色調のポスターは楽しい明日へ謳歌するのを誘っているかのような──苛つくものだった。
(これが脱線事故を起こすのか?これがあたしの故郷を…)
心臓が脈打つような、衝撃が走る。あれは、あれが起こす事故を止ればあの悲惨な事態はもみ消される。
(未来を変える。いや、過去を変えるなどできるのか?それは…)
神への冒涜ではないか?
至愚は乾いた笑いをもらし、ヨタヨタと重だるい肢体を動かした。
(神殺しが何を…あたしは、)
「はは…」