どうほう の あらそい
「あああーっ!!」
「グギァ!!」
いきなり車道に何かが二つ、転がるように落ちてきた。良くある猫の喧嘩かと思ったが図体があまりにもでかい。
ミス(Miss)は唖然としたが、リクルートスーツを着た者同士だと知りさらに驚愕した。
(いるんだ…私たちの他にも、いっぱい)
色素の薄い髪をした女が老人を食らっていた──あの少女を取り押さえ、首に齧り付いている。ジタバタしている子供の体躯では敵わず、何か異常事態に苦しんでいた。
「や、やめ──」
「グルルッ」
金色の双眸に射抜かれ、体が硬直する。あの色は多多邪の宮と同じ──
「この子。僕たちをつけてたんですね」
「え、じゃ、じゃあ!あの二人は?!」
「この人はどうやら止めさせようとしているみたいです」
適当な言い草で彼はファンシーなコンパクト──ポエティック♡コンパクトミラーからシャベルを召喚すると構えた。
「ちょ、ちょっと!争いはよくないですっ!」
「同胞の中には危害を加えてくる輩もいるんですよ。勉強してください」
「ガルルッ」
威嚇行為をしていた金色の目の同胞は、力強く子供を踏みつけ痛めつける。何かを示したいのだろうか。
「もしかして…その子、危ないの…?」
「るあーーーーーっ!!!!!」
ジタバタするも何もできず、少女はわめくだけ。
「…私があの時、髪を結わいたから。ついてきちゃった?」
咄嗟にミス(Miss)は駆け寄り、その子の額を撫でた。
「ごめんね。勘違いさせるような事をしちゃって、わ、わた──」
「どうするんです?話が通じるとは思えないのですが。嫌な予感がしますねえ、とどめを刺してあげましょう」
「えっ!」
驚いて動こうとした瞬間、マジカルシャベルが金色の『何か』を弾いた。それは子供の身体から飛び出し、こちらへ牙を剥く。
ミス(Miss)は超常現象の連続に釘付けで動けない。金色の触手に射抜かれて──しかしソレは白髪の女性に噛みちぎられる。
「ヒッ…」
あれは瞳の内側に宿る光と同じ。同胞の上位に色濃く現れるエネルギー。
「ミス(Miss)さんは僕がこちら側に引き込んだんです。貴方の親御さんは横取りが趣味なんですか?せこいじゃないですか」
「横取り?!え?え?」
「ママあ!いだあああaaaa!!!」
訳も分からず、ワタワタしていると金色の光を霧散させ、四つん這いで走り去ってしまった。
「う、…な、なんだったの…」
喧騒から一転、夜道の静けさが戻ってくる。脱力感に襲われたミス(Miss)を他所に、咋噬 南闇は見知らぬ同胞へ一礼した。
「ありがとうございました。貴方のおかげで、僕の負い目が消える所でした」
今まで怒りを顕にしていた女性は、人語を発さずフンと鼻を鳴らしこちらを一瞥するなり、野生動物の如く夜闇へ消え入る。どうやら敵意はなかったようだ。
「…よく分からないけど…私は余計なお世話をしてしまったのですね」
「親切は時に厄介事へ転じます。これからは気をつけてください」
「はい…」
あの子に親御がいた?あの光は?横取りとは?
問いただしたいのは山々だが、もうこの場から一刻も立ち去りたい。トンネルの灯りにひき寄せられ、慌てて腰をあげる。