ふね と たましい
ミス(Miss)は人魂の事を思い出していた。あの日、アパートで見たぼんやりとした光源。
人魂は科学的に証明されている、といつだかテレビで見た。しかしあれは…。
「見てください。──人魂ですよ」
「あ!」
ある海岸地帯。夜の砂浜を歩いていた。民家の少ない港町と言ったところ。
砂浜を歩くのは好きだったが、内陸部に生まれ育ったミス(Miss)からしたら人工の灯りが一切ない夜の海は恐怖でしかなかった。
さざ波だけが耳につき、潮風の匂いがする。が、他は無なのだ。まるで臨死体験でもしているかのようだ。
南闇が言った通り太鼓の音と共に、人魂らしき光が浮遊している。光の玉は薄らとしてはいるがあの日に見た色に似ていた。
「やっぱり人魂だったんだ」
「多分あれが本当の人魂だと思います。だって肉体から出ていますから」
南闇は数体の光を笑顔で眺める。
「えっ、体に入ってると人魂じゃないんですか?」
「さあ、世に言う人魂は外にいる状態を指すのではないかと」
「はぁ…」
そもそも胸の内にしまわれていたら光りはしないか。じゃあアレは何だったのだろう?
(人黄?そういえば獣面人が人黄って…)
思考を遮るように太鼓が近づき、鳥居のある不思議な船がほのかに発光しながら陸に座礁しようとしている。
「…あの」
「アレは極楽浄土から帰ってきたのでしょうね」
「ええっ?極楽浄土?そんな船が??」
「あの形の船は極楽浄土を目指して渡航した者が乗るんです。至愚さんが教えてくれました」
「へえ〜、あの世って本当にあるんですね!」
人魂たちがいっそう激しく動き回ると、船からベチャッと不可思議な音がした。水に濡れた不気味な音。
「恐らくはあの人、極楽浄土へは行けなかったのかもしれません」
「…そうなんですか…」
黒い影が水を滴らせなら、陸に上がり人里へ向かって歩いていく。
生まれ故郷へ帰るのだろうか。
「…人魂たちは」
「さあ、僕らには関係ありません。そろそろ行きましょうか」
スタスタと歩いていく南闇に、ミス(Miss)は船を振り返りながら進む。
「人黄食いの眷属よ。当てどもない旅路に幸あれ」
低い声が影からした気がした。人黄食いとは?分からない。
(旅路…そっか、私は寿命もないし、ずっと生きてくんだ…)