にべもなく
無意味名 パビャ子は鉄塔にたかるムクドリをムシャムシャと食べていた。ムクドリのけたたましい断末魔が、夕暮れの川辺に響き渡る。
「なぁっ!なんだありゃあ?!ムクドリが食われてる!」
通りかかった老人が、鉄塔に何かが居てムクドリを鷲掴んではガリガリと食べているのを目撃してしまった。
ちぎれ、血のついた羽が風に吹かれ辺りに散らばる。
「ひイイっ!!」
腰を抜かしながら転がるように逃げていった。
「──ん?なンか居た?」
無我夢中で食事をしていたパビャ子はチラリと土手を見やったが、また新しいムクドリを捕まえては食べていく。
「知ってる?ここら辺に猿みたいのがうろついてるらしいよ」
スマホを怠惰に任せいじりながら乎代子が口を開いた。
「ええっ!珍しいね〜!」
「いや、最近は珍しくない気がするけど…注意喚起でてるから気をつけなよ」
パビャ子は頷いておにぎりを食べる。スーパーの割引きシールが貼られた夕飯を一つもらったのだ。
「いやぁ、暑いわ。クーラー、どっかに落ちてないかな…」
蒸し暑い規格外の夏が、日本列島を悩ましている。廃墟化したアパートも例外なく熱がこもる。
化け物たちはさして気にしていないが、乎代子はまだそこまでじゃなかった。
「ネカフェに行けば?」
「金がない。最近、いい仕事に巡り会えなくて…」
「そっかあ。じゃあ、パビャ子さんと自給自足の生活しようよ」
「はぁ?嫌だ。…そういや、最近、ムクドリがいなくない?」
外で騒がしく駅に向かって飛んでいくムクドリの群れを見なくなったのを、ふと気づく。日常の気にとめない一コマの異変。
「どっか行っちゃったのかな。残念」
「残念って…フン害とか大変らしいじゃん。つーかなんで残念なんだ」
「うーん、うんうん」
「ハア?」
よく分からん、と陰気臭いオンナはスマホを弄る。横にはクスが寝そべってぼんやりと夕焼けを眺めていた。にべもない宵の口。
明日は天気が荒れるらしい。血みどろな、真っ赤な色が部屋にみちる。
「猿を探しにいこうよ」