まなこ むシ
真夜中の3時。ミス(Miss)は道すがら珍しいものを見た。目玉が落ちている。
落ちていると言うよりは、葉に乗っているというべきか。
一軒家にある庭木の葉に人間の眼球がちょこんと乗っていた。良くある目玉柄のスーパーボールに似ていた。
「イタズラ…?」
触ろうとすると、強烈な気配がして手を引っこめる。名も分からぬ木の葉にはたくさんの目玉が住みついていたのだ。
「わっ!」
「これは眼むしじゃないですか」
「まなこむし?虫なんですか?!こんなの見た事がありませんよ!」
「この世の者でない部類の、コガネムシみたいなものです」
「へ、へえ〜〜~」
眼むしはしまっていた足をヒョッコリと出すと、カサカサと葉の裏側に隠れていった。
「眼むしが住みついた家は良くない事が立て続けに起きるのだそうです」
「えっ」
コガネムシは幼虫が木々の根っこを食べてしまうが、それと同じなのだそうだ。
「人の根っこを食べて、ついには一族ごと枯らしてしまうのです」
「怖いですよぉ!」
南闇は相も変わらず爽やかな笑顔で『怪虫』が大量発生した木を仰いだ。
「目玉は脳に直結していますから」
「やっぱり目玉に成り代わるんですね…」
「はい。寝ている間に人間の目玉を食べて、そこに寄生するんです」
だから隠れていないで、表に出ていたのか…。
ミス(Miss)は化け物の奇妙な生態系と、また自分は目玉にならなくて良かったと安心した。虫に変身してしまったら、今頃どうなっていただろうか。
「…この子?たちに自我はあるんですか?」
「さあ。虫になった経験はないので、分かりません。ですが僕は虫になった方がマシだったな、と後悔していますよ」
歩き出した彼を慌てて追いかけ、きっと恐ろしい末路が待っている民家へ視線を向けた。
「で、でも…」
「人間の姿のままなんて苦しむだけです」
「え〜っ。私は嫌です。手が使えなかったり、言葉が話せなかったり」
「意外でした」
「え、わ、私をなんだと思ってたんですかっ?」