まなつ の こうえん
ミス(Miss)はうだる暑さを慣れようとつとめる。この世の者でない部類に暑さ寒さなどない、と咋噬 南闇が叱るように言うからだ。
暑いものは暑い。川か海に飛び込みたいくらいだ。
(──暑さ寒さも彼岸まで。そんな、ことわざあったなあ)
彼岸、とは何だろう。灼熱地獄だと囁かれるこの地は此岸だと口を揃えて化け物たちが言う。
彼岸と此岸。あの世、この世。現し世と幽世。
──お彼岸。
母親がさめざめと泣きながら、墓の前でうずくまっていた幼い記憶が蘇る。あれはお彼岸の日だった。
(なんで忘れていたんだろう。お母さん、なんで泣いていたの?誰を惜しんでいたの)
お彼岸は、ご先祖さまを敬う日本の行事よ。母が教えてくれた。今更、何を。
(お母さんとお父さんは燃えてしまったのに)
「私…死んだのに、どうしてこの世にいるんだろう…」
汗を拭い、アスファルトにたゆたう蜃気楼を眺めた。
「貴方が化け物だからですよ。彼岸にいるべきなのに、この場にいるヤツらを皆は、化け物と呼ぶのです。…そういえば東京ではそろそろお盆ですね」
彼が満面の笑みでおでんを食べている。見ているだけで暑くなる。
「あの世にいる人たちが来るのに、私たちはあの世に行けないんですか?おかしくないですか?」
「…遠い遠い昔、彼岸と此岸の渡しをしていたひとが嫌気をさして川から逃げてしまったそうです。なんでもとてもとても辛い思いをしたそうで──」
「えっ、川って三途の川ですか?」
「ええ」
公園の片隅で、二人はぼんやりと日陰のベンチにいる。地球温暖化か、それとも地球の周期か、異例の猛暑が連日更新されていた。
「その人がいなくなっちゃったら、立ち行かなくて大変になっちゃうじゃないですかっ」
「あはは。昔話ですよ、ただの。…僕は思うんです。あの世なんてない、と」
彼はたまに難しい事を吐く。ミス(Miss)には分からない内容の。
「だって、あの世から帰ってきた人なんていないでしょ。居るのならお会いしたいですよ」
「まあ…そうですね」
「だから。僕は化け物たちが『ここ』に居座る口実なんじゃないか、と考えている」
人っ子一人いない砂場や遊具はジリジリと陽射しを受けていた。
「うしろの正面から、同類から、後ろ指をさされないように」
「よ、…よく分かりませんが、罪悪感はあります…」
脳裏にブタの獣面人が過ぎる。彼らはこちらを敵視していた。相手がこの世の者でない部類であるから、仲良くできる訳ではないようだ。
「それぐらいが丁度いい、と至愚さんが言っていましたよ」
「丁度良い…ですか…」
真夏がいつなのか検索してしまいました…。