ひねくれた でし
「──おやおやぁ。徒魚さーん。道具と喧嘩するなんて、お人形さん遊びに目覚めたんですかぁ??」
クスクスと邪魔をする声に、至愚は総毛立つ。臨戦態勢で周囲を確認した。どうも気配がおかしい。
あのまとわりつくような気配を存じている。
ユラリと防犯灯の明かりの下にアッシュ系にカラーリングさられた髪の若者が現れた。年端もいかない中高生に見える人物。
夜闇に浮かび上がる燐光を閉じ込めた瞳。服装もそこらにいる若者だとしても不自然ではないが──
「徒朧。お前、今さらアタシに何の用だ?」
徒朧と呼ばれた彼女か彼は犬を乱暴極まりない動作で蹴飛ばすと、夜闇へ消えていくパビャ子の背を見やった。ニンマリと下品な笑顔だった。
「ワタシの創った呪具の劣化コピーがそろそろ会いに来るかなー、と思ったんだけど。まだ来てないンですかあ」
「…は?」
「徒魚さん、いや、至愚さんの作ったお人形さんに。貴方にワタシの作品の出来損ないが会いに来ます。その際はよろしくお願いしますね」
「アタシの呪具に手を出すな。呪殺するぞ」
まさかあ〜と若者はニヤリと笑うと、至愚へ手を振った。
「ははあ。おっかない。死脚を造った術士にも再開できるといいですね〜。アイツ、きっと徒魚さんの話聞いたら飛んできますよぉ。ファンですから」
「なぜ頭が動物の人間を造った?アレのせいで此岸はめちゃくちゃだ」
人面獣に問いかけられ、彼は振り返る。気色の悪い笑みを固定したまま。
「ワタシはね。人間が嫌いなんです。だからああいうおバカな生き物を造ってみた。そうしたら意外と馴染むんですよ、此岸に」
「馴染む?」
「誰かさんが彼岸と此岸の引導を辞めてから、此岸の方が化け物たちの宝庫になってるんです。だからアレらは勝手に増殖していく、現代アートです。風刺的な。なんちって」
ギャハハ、と缶チューハイを片手にふざけた事を抜かす。至愚はため息をつき、去れとジェスチャーした。
「徒魚さん。そんな醜い姿になるなんて、見損ないましたよ。ホント。醜いし、見ていられない」
「どう好意を持とうとしようとも、アンタだけは嫌いだったな…」
「まあ、私が作っている作品と余り変わらないんですけ──」
ピッ、と徒朧の首が裂け、そのまま切断し飛んでいった。
人面獣の影から狂気を体現した『眼』が飛び出し、禍々しい塊から生えたフクロウのような鉤爪が身体を砕こうとする。
「な、なに?何だ?その術?」
「術じゃない」
鳥類の奇妙な警戒音がこだまし、磁場が狂いだした。どこからともなく蛾が集まりだし、彼の目玉や口にはりつこうとする。
「やめろ!やめろよっ!」
「人の容姿を悪くいうんじゃないよ、徒朧。アンタは何百年経っても成長しないね。…ソイツに彼岸へ連れていかれないよう次回は気をつけな」
「クソッ。だから嫌いなんだ!このアマ!!協力しようと思ったのに!」
首が独りでに浮くと、いそいそとどこかへ逃げていった。それを見兼ねた鉤爪が掴んでいた身体を放す。
「パーラム。お前、私の許可もなく攻撃するなよ。全く…その馬鹿力なんとかしてくれ…」
あっという間に腐敗していく残された四肢を眺めると、目玉はギョロリと動くと影に収まっていった。
(変なのがわんさか現れるようになっちまったね…困ったもんだよ…)