はっぴーへぶん、を すう
「ををヲ、を乎代子!ぁ、ゎーっ!わ…ど、どうしよう…」
ラファティは半泣きになりそうな顔で素っ頓狂な動きをし続ける乎代子を眺めていた。
天井をカサカサと動き回る様はゴキブリかジャパニーズホラー映画の悪霊。一般人にはできないアクロバティックな動作は『洞太 乎代子』ならではの個性であった。
どうすれば止められるだろう。
「きょほぽーーーーーーーーーーーーっっ!!!?!」
笑顔のような、憤怒のような、それでいて死人の如しおぞましい顔のまま絶叫する。
「こんばんちゃ〜〜~。あ、え?何これ?」
勝手にアパートの一室に入ってきた無意味名 パビャ子が、天井の乎代子を見やりあまりの光景に固まった。
(あのパビャ子が固まった…)
常日頃、おかしい言動を繰り返す方のパビャ子が状況把握できずエラーを起こした様子はもう二度と見れないかもしれない。
「パビャ子!変なタバコ吸わせちまったらこんな事に!!」
「変なタバコぉ?」
彼女は土足のままあがると畳に放置されし煙をあげているタバコを見て、スンスンとテイスティングした。
「んー、なんか、この世の者でない臭いがする。人間用じゃないよ、コレ」
「そうなのか…やっちまった…」
人間用でないのなら職場に置いてあるのも頷ける。自らはこの世の者でない部類なのだから。
「どうすればいいんだ?乎代子は一応は人間なんだ…無理やり押さえつけたりしたら複雑骨折しちまうかもしれねぇ」
「そーだね!とりあえず抱きついてみる!」
「お前!馬鹿なの!?」
カサカサと這い回る女性にリクルートスーツの茶髪女はガシッと、肢体を捕まえた。
「ばあああああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!!」
ジタバタと手足をバラバラにとんでもない動きをすると、人間の声量では無い程の叫びをあげ、音波で脆かった窓ガラスを破壊した。
「はむっ」
パビャ子はその口にかぶりつくと、良い子にはお見せできない様な熱い口吸いをかました。口吸いというよりはエイリアンがズゾゾ〜、と人間から中身を吸い込んでいるような力強さだ。
「わ、わぁー」
情熱的な女性同士のお見せできない光景に、ラファティは目を手で塞いだ。彼は外見こそ青年だが中身は子供だった。子供の頃に上司に拾われ、天使になったのだ。
「んべろぉ、んばぁ〜〜~」
「う、ゲボッオヴェえ、あ、あ…あれ…私は…?え?パビャ子?おめー、私に何してんだよ?!」
「キス♡」
「ぎゃあああ!!」
正気に戻った洞太 乎代子はもう一度ジタバタすると、グッタリと脱力した。
「おえーなんか…すげーだるい、お前、まさかエロい事を?!」
「何もしてませーん。クソザコ乎代子がぁタバコ吸ってトリップしたから治してあげましたぁ。褒めなさい」
「そ、そうなの…?あ、ありがとう?」
首を傾げながら、彼女は感謝するも鳥肌をさすりたいと悪態を着いた。
「俺は盗みを犯さねえ。そう誓った」
職場に帰ったら何と言い訳しようか、とどこまでもクズなラファティであった。
「虚無なありきたり」は一応ガールズラブ要素を含む、という作品なので自分なりに乎代子とパビャ子のガールズラブとは?を書いてみました。
そうしたら汚ねえものになりました。
彼女たちはいちゃラブする間柄でもないし、美しい女子同士の愛情でもない…な、と。