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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜 ☆litとInsane☆  作者: 犬冠 雲映子
きりとりせん(ミス(Miss)ちゃんと南闇くんの旅、etc.)
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きょうき と のすたるじい

「…(つぐな)い?乎代子が?」

 至愚は頷き、犬の死骸を鉤爪で指さした。

「パビャ子。此岸の生き物はこうなったら同じ人物ではない。違う存在になるんだ。クスはイヨ子の妹にはなれないよ」

「…ねえ、至愚。乎代子からイヨ子の記憶を消してよ」

 茶髪オンナの瞳からいつもの能天気さが消えた。

「だって乎代子はこうなったんでしょ?じゃあ、イヨ子じゃないじゃん。だから別人にしてよ!パビャ子しか知らない人にしてよ!」

「パビャ子!それは禁忌だ」

「ヤダヤダっ!乎代子に妹なんていらないっ!元の乎代子に戻してよお!」

 しかし至愚は首を縦に振りはしない。冷淡な顔つきで跳ね除けるだけだ。

「なんで、なんでなんで──」

 この場から逃げるように、走りだしわんわん泣いた。人目もはばからず涙を流し、拭いもせず駆ける。

 気がつけば市を横断する川岸にきていた。

「サイテー、サイテーサイテーサイテー」

 ブツクサと吐き出し、向こう側から人の声がするのに気づいた。川面の薄らとした光とザアザアと雑草を揺らす風の合間から。





()()()()()()()!」

  嬉しさに駆け寄り、『彼女』の変わりなさに内心安堵する。

「どこいってたんですか?!」

「秘密」はぐらかされ、『リクルートスーツの女性』が歩くのを眺める。


(あの人たち、何者?私に似てるのがいる)

 パビャ子と呼ばれた色素の薄い茶髪の彼女は落ち着いている。混乱している頭の隅で、後ろを着いていくのは八重岳 イヨ子だと確信した。


「あそこら辺に座ろうよ」

  土手に設けられた階段を指さし、二人は座り込んだ。久しく二人きりだ。

「失望した?」

  世間話のように、彼女は開口一番にそんな言葉を吐いた。

「騙して、弄ばれたら普通は嫌いになるよね?私はね、イヨ子ちゃんを利用していたんだ〜。最初から!気づかなかった?チョロすぎて途中から可哀想になっちゃった」

「何も思わないです。嫌いにもならないですし」とイヨ子は答えて水面を眺める。キラキラと反射する光が長閑で気持ちと剥離していた。

「へー、ドライな性格してるね」

「今更感満載な言い方やめてください」

「知ってるよ。イヨ子ちゃんが強がってるの。怖いでしょ。私が」

  否定はせず、ため息をついた。しかしパビャ子は同じく水面と野鳥を穏やかに眺め、静かに語り出した。

「…彼岸なんてものはないんだよ。人間が作り出した、偽の世界。この世の者でない部類も、人間が作り出した偽物。偽物がまかり通る世の中。それが人の世界。『なきさわめのかみ』になっても、プラスにならない。虚無で意味のない、悲しい世界。それがこの星」


 無意味名 パビャ子はそれをただ涙を伝わせながらしかと焼き付けていた。

 あれは二人の約束なのか。


「──あの、私を…生贄にするのなら…この世から八重岳 イヨ子の存在を消して貰えませんか?」

「取引をする気?」

「パビャ子さんの記憶からも消し去ってほしいんです」

「酔狂だねえ」

  自分は元からこの世に未練がなかった。だから、最後に『儀式』をする。そうしたら生贄になれる。

「私はパビャ子さんのファンでした。憧れるって時に狂気になりますね」

  熱くなる目頭を堪え、イヨ子は告げる。

  それを聴いたパビャ子はただ薄らと目を細め、笑うだけだった。




「あー…、そういうの。気持ち悪い」




「気持ち悪いって言うなっ!気持ち悪いなんて!」

 ザブザブと川に飛び込んで、向こう岸の『パビャ子』に怒鳴る。二人は面食らった様子でこちらに気づいた。

「私は肯定するよっ!イヨ子ちゃんがその人に憧れてたの!好きだったの!命を捧げてまで、憧れるのは気持ち悪い事じゃないっ!」

 八重岳 イヨ子の曇っていた瞳が煌めき、一筋の光を零した気がした。

 パビャ子は足を滑らせて、川の深い場所に呑まれる。ザブリと視界が水におおわれる。

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小説家になろう 勝手にランキング

かなりランキングに向いている作品とは思えませんが、ぽちィーーー!!!としてくれるとマンモスうれピーーーー!!です。

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